憧れるズルさ ―アルマイトの栞 vol.210
なんだか近頃の河出書房新社の『文藝別冊』はズルいんじゃないかと思うほど魅力的な漫画家の特集を組む傾向にあり、5月末に刊行された文藝別冊『諸星大二郎 マッドメンの世界
』のズルさときたらハンパではなく、通常はA5版の文藝別冊なのに、本誌だけ特別にA4版の大型サイズへと拡大され、聞くところによると、後にも先にも、この特集のためだけにA4版となったのだそうで、それほどまでの特別扱いは尋常ではないと思われ、たとえば『週刊文春』が驚天動地のスクープを掲載するにせよ、通常のB5版からB4版へ拡大するなんてことは有りえないのであって、つまり文藝別冊には、有りえないことなど、もう無い。




「この玉川上水の中に はいらないで ください。」と書かれた看板が存在するからには、どこかに入っても構わない「その玉川上水」だとか、入っても構わないけれど泳いではいけない「あの玉川上水」だとかの様々な「玉川上水」が存在するのではないか。それとも、この看板の文言は、目の前の水の流れが「神田上水」でもなければ「善福寺川」でもなく、他ならぬ「これこそ玉川上水だ」と、それとなく強調しているのかもしれず、誰かが書き加えた「学生マナーよく」の一文は、この文言が近隣の学生への注意だと補足しているわけだが、近隣には武蔵野美術大学しかないので、ムサ美の学生が玉川上水に入りたがるのだ。
