やさしい文章 ―アルマイトの栞 vol.66
なんでもいいから電車の中で読むものをと思って自宅の書棚から持って出たのがなぜか『日本霊異記』だった。いつどこで買ったのかは憶えていないが、「平凡社ライブラリー」の文庫になっている現代語訳である。「やさしい現代語訳」とか、そんなふれ込みに惹かれたのかどうかもはっきりしないけれど、学生の頃に新潮社の「日本古典集成」シリーズで校注付きを買ったのは確かなので、やっぱり「やさしい」に惑わされて現代語訳を買ったのだと思う。「やさしい現代語訳」を謳っている古典は随分と多いけれど、ここで使われている「やさしい」はクセ者かもしれない。「現代語訳だからやさしいよね」は嘘だと思う。