当てはまる音 ―アルマイトの栞 vol.117
映像作家のOさんの協力を得て昨年から撮り溜めてきた映像を、そろそろどのように編集してまとめるのか考えねばならず、そんなことにボンヤリとアタマを巡らせていたら、「一曲でいいから何か音楽を入れたい」と思ってしまった。自分で自分のクビを絞めることばかり思い付く、難儀なアタマである。しかし、「何か一曲」と思いはしたものの、具体的な曲のジャンルすら定かではなく、と云うことは、全ての音楽ジャンルが候補になり得るわけで、それは困ったことだ。旨く合いそうな曲調を偶然にでも気付かないかと考え、ともかく聴き始めたのは、松本隆さん作詞の曲ばかりを集めた7枚組CDボックス『風街図鑑』だ。古いアイドル歌謡を聴きたくなっただけなのじゃないか。


どう云うわけか、やたらとDVDを手渡されている。その大半は、映像作家のOさんから渡されたもので、Oさんが付き合ってくれている仕事で撮影してもらった映像だ。舞台公演の記録映像もあれば、インタビュー取材の映像もあり、半村良さんの作品に登場する場所を二人で歩いてみた際の映像もある。いつの間にか机の上でDVDが増殖していた。Oさんと会うたびに増える。これから編集作業を進めていく映像ばかりで、と云うことは、きちんとチェックしながら観ないといけないわけだ。観るスピードが追い付かない。Oさんがコッソリと「遊び心」エフェクトを映像中に仕掛ける人だと気付いた時、「早送りするな」とOさんに耳許で囁かれた思いがした。
西新宿の界隈を、映像作家のOさんと一緒にカメラを持って歩き回った。半村良さんの『高層街』の物語に沿って歩き回ったのだ。『高層街』は1980年11月の西新宿を舞台にして始まる。半村さん本人と思しき小説家が、開業二ヶ月後のハイアットホテルに長逗留して原稿を書いている状況設定で、なにせ表題が『高層街』だから、ハイアットから見える高層ビルの名前が目白押しに登場する。ハイアットを扇の要に、北東方向の野村ビルから時計回りに南のNSビルまで、8棟のビル名が並ぶ。その光景を、作品と同じように撮影してみようと出掛けたわけだが、困った。ヒマな人は地図を見て欲しい。高さ243mの都庁が邪魔だ。コクーンタワーはセンタービルの向こう側なので、見えないことにした。
河出書房から刊行された文藝別冊『追悼 小松左京』は、執筆陣が驚くほど豪華だ。つい買ってしまうのは仕方が無いが、そもそも自分はそれほど小松左京さんの作品を読んでいない。むしろ、『日本沈没』を読み始めては途中で挫折した経験が十代の頃に幾度もある。しかも、なぜか必ず上下二巻の上巻まで読んで挫折するのだ。だから、『日本沈没』の上巻のラストシーンだけは無闇にハッキリと記憶している。何の自慢にもなりはしない。さいとう・たかをさんが劇画化した『日本沈没』は全三巻だったが、これですら二巻あたりで挫折した。原作の上巻ラストと同じ箇所だった。なにか、してやられたような気分になったが、つまり自分はいまだにベストセラー『日本沈没』の結末を知らないのである。
