祝!『数と建築』出版 ―アルマイトの栞 vol.37
装画を担当させて頂いた溝口明則さんの著書『数と建築―古代建築技術を支えた数の世界』が今月の5日に全国の書店に配本となった。晴れて出版だ。何だかとにかく嬉しい。表紙の絵も、各章の扉の絵も満足のいくものが描けた。表紙の絵は確定するまでに幾つもの絵を描いたが、最終的には自分が一番納得のいくものが描け、またその絵を溝口さんや鹿島出版会のKさんも気に入ってくれたので、とても好い結果に落ち着いたと思っている。出版社の社内でも評判は好い様子。僕自身の一番根源的なスタイルの絵を評価してもらったのは何より嬉しいことだ。
絵の話ばかりしていてはいけない。そもそもどんな本なのかロクに紹介していなかった。この本の内容を一言で表すのは難しいのだけど、本の帯に旨くまとめた文章が書いてあったので、それを引用させてもらおう。先ず大きく書かれていることは「数学がなかった頃の、数と建築の関係」。本の表題も含めてここでは「数」を「すう」と読む。そして続いて書かれていることは「ウィトルウィウス以降、再三言及されてきた比例と美を巡る議論から、古典主義、コルビュジエなどヨーロッパの伝統的視点を批判的に検討し、日本古来やアジアの建築技術との比較を試みることで、古代世界の設計技術の実相を明らかにする意欲的建築論」とある。そして帯の裏表紙側には本文からの引用として「黄金比が本当に建築を美しくするのか」「幾何学があるから幾何学図形ができたのではない。幾何学形態を生み出した専制国家の建築や都市の生産方法、形態の制御方法こそが普遍的な性格をもつ」との記載がある。この帯に書かれた文言は確かにこの本の内容を簡潔に示している。とにかく興味深く、目から鱗の落ちる話ばかりの内容なのだ。絶対に多くの人に読んで欲しい。特に「パルテノン神殿は黄金比で設計された」と信じ切っている人たちに。
僕は昨年の5月に溝口さんから「感想を聞かせて」とゲラを渡されてゴールデンウィークを費やして読んだのだった。とにかく面白かった。ゴールデンウィークは家から一歩も出ずに、むさぼるように原稿を読んだ。それほど面白く、且つスリリングだったのだ。と同時に、溝口さんと親しい付き合いをさせてもらって以来、溝口さんが再三に亘って夜を徹して僕に話していたことが、まさにこの本の内容だったのを知った。浅学にもかかわらず、僕自身、何度か知ったふうなコメントを口走ったのだが、この原稿を読んで溝口さんの徹底的な思考の深さ、鋭さを知り、またある種の執念を感じた。分野が異なるとは云え、同じ研究者の途上にある者として、僕は自分の甘さを恥じ入ったのである。いかに自分が怠け者かを知らされたのだ。20歳離れた悪友の呑み友達は僕の貴重な先輩であり、恩師にもなってくれたのである。溝口さんとの出会いは僕にとって財産だ。だからこそ、装画をさせて欲しかった。何でもいいから協力したいと、おこがましい衝動に駆られたのだ。
ともかく溝口明則先生、おめでとうございます。次にお会いする時は是非祝杯を。そしてこの文章を読んでくれた皆さん、立ち読みでも何でも構わないから、もし書店でこの本を見かけたら手にとってみてください。ヘタな推理小説よりも遙かにスリリングな読後感を味わえることは僕が保証します。
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