「いちじく」ともかく落成 ―アルマイトの栞 vol.38
カフェ「いちじく」となる予定の住宅兼用店舗H邸がともかく落成したのだった。当初は工期が間に合うか微妙な雰囲気だったが、フタを開けてみれば工程表通りの落成だ。Tetra Logic Studioはこのプロジェクトにコーディネーターとの立場で関わったわけだが、工程表通りの実現を可能にしたのは協力企業のnico一級建築士事務所代表であるSさんと工務店の努力の賜物である。感謝の念に堪えない。
「クライアントの手作り」と云うコンセプトの通り、外壁のペンキ塗りなどはクライアントであるH夫妻とその友人達がSさんの指揮のもと頑張ったわけである。本当は僕もその作業に参加するのを愉しみにしていたのだけれど、何やら忙しかったり、チョット体調がすぐれなかったりで、結局は不参加に終わってしまった。何だか申し訳ないことをした。ホントに愉しみにしてたんだよ、ペンキ塗り。広い面積に絵を描いたり色を塗ったりする作業って愉しいじゃないか。Sさんの話によれば、作業当日は毎回えらく大勢のH夫妻友人が集まっていたとのこと。指揮を取るのは大変だったろうけれど、これもH夫妻の幅広い交友と人望の現れなんだろう。なかなか「タイル職人の知り合い」っていないよ、普通は。
もう一つのコンセプトは「作りながら住む」。実は現時点で建物の内装は「住むことは出来る」と云う程度の簡素な仕上がりになっている。ここにH夫妻が住んで、生活をしつつ床や壁、それから建物周囲の外構なんかを好きなように仕上げてもらうわけだが、正直なところ、今のままでも充分に魅力的な空間である。「このままでも面白いよな」と思った。むしろ「自分で住みたい」と思ったくらいである。それほどまでに当初思い描いていた空間が実現できたのだ。Sさんも「完璧に出来ました」と喜んでいた。うん、好かった好かった。
H夫妻がこれから「作りながら住み」、そしてカフェ「いちじく」がオープンする。夢のある話で羨ましい。僕自身にとって、この仕事は「カフェ」と云うものを勉強する好い機会になった。丁度このプロジェクトを引き受けた矢先にウチから徒歩1分程のところに「カフェイチ」さんと云うカフェがオープンした。「なんかカフェらしきものが出来つつあるな」と注意していて、オープン初日に偵察がてら店に入って珈琲を飲んだ。その時からこの店のオーナーであるIさんと話をするようになったのだけど、実はこのIさん(女性)はH夫人と同い年だった。それでカフェのオープンに至るまでの道のりやカフェの実務について様々な情報を話してもらったり、見せて頂いたりした。これがもの凄く勉強になったのである。
正直云って、飲食店業と云うのは大変だなあと思った。でも夢はある。Iさんも「いちじく」のことを随分気に掛けてくれたし、実際にH夫妻にも会ってもらったりした。一歩先を走る同い年の先輩からアドバイスが得られたことは貴重だった。Iさんにせよ、H夫人にせよ、夢を実現する人って尊敬してしまうのである。自分が夢を実現出来ていないと云うわけではないけれど、やっぱりさ、なんか夢のスケールが違うんだよな、この種のことって。まあ前回の記事にも書いたけど、僕は装画を引き受けた本が刊行になって「絵描き」として世間に認めてもらったわけだから、遅咲きだけど「夢」は一つ実現したわけで、こうしていろんな人の夢が次々と叶っていくのは自分のことのように嬉しいわけである。
落成したこの建物をH夫妻が気に入ってくれると嬉しい。そして早くカフェ「いちじく」がオープンしますように。少し通いづらい場所だけど、いろんな人が常連になってくれますように。場所は八王子の多摩美キャンパスの目の前。JR横浜線の橋本駅で降りて、多摩美行きのバスで終点まで乗って多摩美の構内に降りれば野猿街道を挟んだ北側に見えます。御興味のある方は是非是非一度。そしてカフェ「いちじく」オープンの暁にはゆっくりと珈琲を一杯どうぞ。店のコンセプトは「大正ロマン」。
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