そうなった真相 ―アルマイトの栞 vol.153
古書店の棚に、古い『チェスの本』を見付け、本の内容よりも表紙の写真が気になり、手に取って、立ち見した。「この様子は難解なゲーム展開なのだろうか」と思い、表紙の写真を眺めたが、自分のアタマでは即座に理解が出来ず、白と黒のどちらが優勢なのかすら、よく判らない。「家で考えよう」。それだけの動機で、本を買った。表紙の写真は、裏表紙の一部分まで回り込みながら左綴じに続くので、自宅で本のカバーを外して拡げ、あらためて写真を見つめた。ジッと見つめるほどに、何か不可解な印象がアタマの中を横切り始め、数十秒後に、それは疑念となった。「駒の配置がデタラメだったりしないか」。

2010年10月に、映像家の大津伴絵さんと一緒に曼珠沙華の花を撮影して歩いた。その翌年の9月が本番の公演で、曼珠沙華の映像を投影すると好いのではないかと考え、本番直前だと曼珠沙華の季節には少し早いと気付き、慌てて二人で出掛け、満開の時期こそ逸したものの、どうにか映像素材を集めることには成功し、「一年前に準備万端の自分たちは偉い」と、互いを誉め讃えたものだが、演出の人は全く興味を示さなかった。お蔵入りにされた曼珠沙華の映像を、「今度こそ使える」と大津さんが掘り出してくれたのは先週だ。デート中のカップルしか居ない浜離宮恩賜庭園を男二人きりで歩き回った一日が、やっと報われる。
