アンテナに訊き、人に訊く ―アルマイトの栞 vol.70
極めつきの方向音痴だと充分に自覚し、それを公言して憚らない自分なのに、またろくに地図も確かめないで出掛けて迷子になった。下北沢は危険地帯だ。学生の頃からうろついて、その度に迷子になった街なのに、同じことを何度繰り返せば気が済むのだろうか。事前に中途半端な地図の見方をしたのが更に宜しくない。「線路を挟んで本多劇場の反対側。近所に郵便局の在る場所」。一ヶ月ほど前にぼんやりと眺めた地図の、おそろしいまでに茫漠とした記憶だけだ。そんな状態で出掛けて行くのは無謀の極みだが、「いざとなったらアンテナに訊けばいい」と、ワケの解らない信念が背中を押した。