直す作業の拡がり ―アルマイトの栞 vol.130
自宅のTVや電話、ネットの回線仕様を変えねばならず、業者の担当員二人が来て機材やケーブルの交換をした。二人のうち一人は「喋り担当」らしく、終始その喋りに引き留められ、作業は終わり、何をどうしたか見そびれた。見られたら困る作業なのか。作業中の相方は鶴の姿にでもなるのか。「パソコンとかの繋ぎ替えも簡単っ!」と喋り担当が笑い、二人は帰った。翌朝、ネットの接続トラブル発生である。初めて自分の目でケーブルの接続状況を見る。何がどこに繋がっているのか、目眩のする光景が現れた。業者へ電話し、受話器を肩で挟んで説明を聴きつつケーブルの抜き差しをしていたら、電話線を抜いてしまった。こうして人は孤立無援になる。
「たぶんこんなことではなかろうか」と当てずっぽうに機材とケーブルを接続したら、直った。と云うか、不要だとしか思えない機器が一つ残って居て、そいつを外したのだ。前日の交換作業の直後にも気になった機器で、しかし業者の喋り担当は「全く問題ないっすよ」と答え、そのままにしていた。口先野郎め。自力復旧をした直後に電話が鳴り、それは自分が電話線を抜いてしまう直前まで話していた業者の相談員からだった。「電話が切れてしまったようでございますが、大丈夫でございましょうか?」「すいません、電話線をウッカリ抜いちゃって」。自分のマヌケさを告白までさせられる。外した機器の件も話すと相手は云った。「考えられないことでございますね」。新たな事例のプレゼントだ。
それから数日後に、今度は自宅のMacが起動しなくなった。それで、殆ど緊急用にしか使っていないノートPCをネット接続しようとケーブルを繋ぎ替えたら、また接続トラブルである。余計な機器は外したわけで、今度は何が原因かと悩み、悩みつつも嫌気が差して、「とりあえず珈琲でも飲みに行こう」と現実逃避に走った。そして近所をブラブラしていると、「直るかも」と思い付いた方法が有り、帰宅して試したら、直った。さらに数日後、どうにか自宅のMac環境を立て直し、設定の復旧作業を始めたら「ネットに接続されてません」とエラーが出た。深夜である。コールセンターも珈琲店も終了している。「とりあえず、煙草を吸って、寝よう」。我ながら情けない現実逃避方法だと思う。
翌朝、気紛れに試した方法で、直った。何だかよく解らないが。だが、立て続けのシステムトラブルに遭遇して、つくづく思うのは「宇宙船の中ではなくて幸い」と云うことだ。宇宙船の中で、通信システムやコンピュータがトラブルを起こし、バックアップ用のコンピュータすらトラブって孤立無援になったとしても、「とりあえずブラブラ出掛けて珈琲を飲もう」は許されまい。軽率な外出は命取りである。煙草も、なんか、不可な気がする。宇宙ステーションや、その種の話題にトキメクことは子どもの頃と変わりはないが、「いろいろ何だかイヤになったらブラブラしに行く」専用の、せめて半径800mはある宇宙ステーションでも実現されなければ、自分のようなダメな者は宇宙など行けたものではない。
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