「らしさ」の要素 ―アルマイトの栞 vol.131
ある印刷物の制作打ち合わせで、「新聞的なデザイン」と話が決まり、それで自宅の書棚に埋もれていた『天井桟敷新聞 全縮刷版』を探し出した。寺山修司主宰「演劇実験室 天井桟敷」が、'67年から'83年まで発行していた全26号の「新聞」をA5版に縮刷した本だ。「新聞の模倣」としては秀逸で、その「新聞らしさ」の一つは豊富な掲載広告の存在だと思った。ただ、広告主の多くが飲食店なのはともかく、どこかのキャバレーの「松井須磨子型から加賀まりこ型まで美女3,000名!」と云うキャッチコピーはどうなんだ。「松井須磨子」から「加賀まりこ」までの間の2,998名がどんなグラデーションなのかを教えて欲しい。
自分たちが制作に関わる印刷物は、よそから広告を取ってくる類のものではないので、「美女3,000名!」は手本にならない。そうなると、広告以外の手段で「新聞らしさ」を出す必要がある。そこで目に留まるのは、記事の文字組みだ。あらためて観察すると、新聞の文字組みは奇妙である。記事本文が長く続いていく場合、行替えの先が突拍子もない所へ飛んだりする。レイアウトとしては随分と大らかだ。雑誌ならば、記事の行替え先へ向かって矢印を附したりするところだが、新聞ではその種の矢印を見かけず、けれども「読みづらい」とは思わない。その自由奔放さゆえに、子どもが作りたがるのは「学級新聞」なのじゃないか。「学級雑誌」を作りたがる子どもを、見たことがない。
そして先日、担当デザイナーのOさんからデザイン案が届いた。それは、笑ってしまうほど見事に「新聞」のデザインで、しかも、連載4コマ漫画の欄も用意されていた。4コマ漫画は「新聞らしさ」のかなり重要な要素ではないか。忘れてはいけない要素だった。学級新聞にすら欠かせぬ要素で、学級新聞と云えば必ず漫画担当になる者が、確実に一人はクラスに居るものだ。それほど新聞に付き物の連載4コマ漫画が、『天井桟敷新聞』には無い。となると、「美女3,000名!」などと云った広告掲載が禁じ手の自分たちにとって、残る手段の一つは連載4コマ漫画である。他にも『天井桟敷新聞』の見落としている「新聞らしさ」が有りはしないか。「秀逸」と評しておきながら、アラ探しを始める。
そこで気付くのは「天気予報」欄だ。4コマ漫画以上に「新聞らしさ」には不可欠な気もするが、新聞を模倣したデザインでは天気予報を見かけない。当然だ。日刊紙でなければ天気予報など掲載のしようがない。自分たちの関わる印刷物は三ヶ月に一回の発行予定である。だが、そこを敢えて、天気予報の掲載を試みたらどうか。問題は、いつの天気予報を掲載すれば好いのかと云うことだ。とりあえず天気図用紙だけ掲載して、「ラジオの気象通報を聴きながら各自で天気図を作成し、予報してみましょう」とでも書いておけば、天気予報であることに偽りはない。ただ、それは「新聞」と呼ぶより理科教材である。「家族でチャレンジ!」と付け加えるか。もう何を模倣したのかすら不明になっていく。
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