ダメ出しが遭難 -アルマイトの栞 vol.175
「照明を担当して5回目かあ」と思う鈴木一琥さんのダンス公演『3.10 10万人のことば』が約一週間後に本番である。いつもは三月に入ってから会場のギャラリー・エフへ通う日々が始まるのだけれど、今年は本番の約一ヶ月前からエフへ通うことになり、それと云うのも、一琥さんが二月下旬から本番の三日前まで国外逃亡するからで、当人が逃げる前に可能な限り準備をするべきだと誰もが考えたわけだが、これが思うように進まず、大雪に阻まれ、誰かが風邪をひき、自分も風邪をひき、なぜだか稽古日が消え、睡魔に襲われ、とにかく二月はダメな月だ。それで他の生き物は冬眠するのではないのか?。見ならうべきだと思う。


小一時間ほど居座ると、少なくとも二回はボビー・ヘブのヒット曲『SUNNY』を聴かねばならぬ珈琲店で、週二回ほど時間を潰す必要があり、つまり自分は週に最低でも四回は『SUNNY』を聴いていることになり、それがオリジナル曲ではなく、誰かのカヴァーした曲で、しかもボサノヴァ風アレンジで、いや、ループで続くBGMが全てボサノヴァ風アレンジで、たとえ外気6℃の雨天強風だろうとボサノヴァの『SUNNY』で、ずぶ濡れの傘の自尊心を傷付けないか心配になる。荒天の日は、ボ・ガンボスの『SHOUT !』収録版の『SUNNY』くらい派手なカヴァーを大音量で鳴らしたらどうか。傘がソウルフルな道具に見えそうだ。
