Tetra Logic Studio|テトラロジックスタジオ

建築・舞台芸術・映像を中心に新しい創造環境を生み出すプラットフォームとして結成。プロジェクトに応じて、組織内外の柔軟なネットワークを構築し活動を展開。

刷り込まれた ―アルマイトの栞 vol.173

小一時間ほど居座ると、少なくとも二回はボビー・ヘブのヒット曲『SUNNY』を聴かねばならぬ珈琲店で、週二回ほど時間を潰す必要があり、つまり自分は週に最低でも四回は『SUNNY』を聴いていることになり、それがオリジナル曲ではなく、誰かのカヴァーした曲で、しかもボサノヴァ風アレンジで、いや、ループで続くBGMが全てボサノヴァ風アレンジで、たとえ外気6℃の雨天強風だろうとボサノヴァの『SUNNY』で、ずぶ濡れの傘の自尊心を傷付けないか心配になる。荒天の日は、ボ・ガンボスの『SHOUT !』収録版の『SUNNY』くらい派手なカヴァーを大音量で鳴らしたらどうか。傘がソウルフルな道具に見えそうだ。

このボサノヴァ風の『SUNNY』が、いつ頃からBGMのループに加わったのかハッキリとした記憶は無いものの、どうやら自分でも気付かぬほど長期に亘って聴かされていたらしく、時折、このボサノヴァの『SUNNY』がアタマの中で勝手に鳴っていることに気付き、そのうち鼻唄として無意識なまま声に出しそうで、キケンだ。無意識の鼻唄のキケンさは、たいして好きでもない曲であろうと、いつの間にか声に出してしまうことで、それに加え、周囲に居合わせた人から「その曲が好きなのだな」と誤解される点にある。知人の一人は、小学校の音楽教育の後遺症なのか、よく「茶色の小瓶、ホッ、ホー」と口ずさむクセがあり、それを指摘すると、当人は「知らないよ」と否定する。病ではないのか。

そんな病はイヤなので、自分のアタマの中からボサノヴァの『SUNNY』を消そうと、ボ・ガンボスのアルバム『SHOUT !』を繰り返し聴いた。『SUNNY』を含む全20曲で76分13秒のライヴ盤である。その凄まじいライヴをヘッドフォンの爆音で聴き続けるショック療法だ。そのうえで、敢えて例の珈琲店に入った。ショック療法の効果を確かめるための「自分を使う人体実験」だが、そこまでする意義は、何も無い。ともかく、実験結果を報告するなら、「気持ち悪い」だった。ボ・ガンボスの『SUNNY』とボサノヴァの『SUNNY』は、曲のキーが違うのだ。カラオケ店で、誰かが唄っている最中に別の誰かが「キー変更ボタン」を無闇に押してやったりするのと同じ、あの気持ち悪さだ。

こんな阿呆な「自分を使う人体実験」をしたばっかりに、当初の状況から「週に最低でも四回は『SUNNY』を聴いて気持ち悪くなる」へと事態は悪化してしまった。実験の後遺症だ。今度は、その後遺症を治療したいわけだが、どうすればイイのか。「カラオケ店で『SUNNY』を選曲し、可能な限りのキーに変えながら聴く」。むしろ症状が悪化しそうだ。ボビー・ヘブには何の恨みも無いが、この際、『SUNNY』から遠ざかるべきで、別の曲をアタマの中に刷り込んでしまうのが賢明だろう。問題は、週に二回はアノ店に入らねばならないことで、ボサノヴァの『SUNNY』をどう回避するかだ。「『SUNNY』が鳴ったらアタマの中で『茶色の小瓶』を唄う」。寄席芸人への道が拓けてしまう。

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