向こう側に居る一人 ―アルマイトの栞 vol.136
二人の会話だけで物語の殆どが進む話について考えを巡らせていたら、ベケットの『ゴドーを待ちながら』を思い浮かべたのは仕方のないことだが、そこに行き交う言葉の目指す先は、いつ読んでも不明だ。「こりゃなんだい?」「柳かな」「葉っぱはどこだ?」「枯れちまったんだろう」とか云ううちに、「だが、こいつはどっちかっていったら灌木じゃないか?」「喬木だよ」「灌木だ」と云い合いが始まり、しかし真っ当な結論に至らぬまま話題は変わる。どうしたことかと思う。もし、この二人の会話を物陰で盗み聞いたら、なんだか関わり合いにならないほうが好いのじゃないかと云う気分になりそうで、自分ならコッソリと立ち去る。