Tetra Logic Studio|テトラロジックスタジオ

建築・舞台芸術・映像を中心に新しい創造環境を生み出すプラットフォームとして結成。プロジェクトに応じて、組織内外の柔軟なネットワークを構築し活動を展開。

憧れるズルさ ―アルマイトの栞 vol.210

なんだか近頃の河出書房新社の『文藝別冊』はズルいんじゃないかと思うほど魅力的な漫画家の特集を組む傾向にあり、5月末に刊行された文藝別冊『諸星大二郎 マッドメンの世界 』のズルさときたらハンパではなく、通常はA5版の文藝別冊なのに、本誌だけ特別にA4版の大型サイズへと拡大され、聞くところによると、後にも先にも、この特集のためだけにA4版となったのだそうで、それほどまでの特別扱いは尋常ではないと思われ、たとえば『週刊文春』が驚天動地のスクープを掲載するにせよ、通常のB5版からB4版へ拡大するなんてことは有りえないのであって、つまり文藝別冊には、有りえないことなど、もう無い。

『諸星大二郎 マッドメンの世界』は、この一回の特集のためだけに判型を大型化しただけではなく、諸星大二郎さんをパプアニューギニアへ一週間の取材旅行に連れ出してしまう企画まで実現し、なぜパプアニューギニアなのかと云うと、諸星大二郎さんの『マッドメン』がパプアニューギニアを物語の舞台としているからだけれど、諸星大二郎さんの他に担当編集者とカメラマンの三人で一週間のパプアニューギニア取材は羨ましいとしか云えず、どうやら全ては、文藝別冊で漫画家を特集するたびに必ず奥付に名前の記されている「編集 穴沢優子」さんがイイ仕事をしていると云うことなのであって、いずれ文藝別冊で『特集 穴沢優子』を出して欲しいものだが、その場合も御本人が編集すると完璧だ。

そもそも、ふと気付くのだが、この『諸星大二郎 マッドメンの世界』は、漫画家を特集したのではなく、一人の漫画家の一つの作品だけを特集しているわけで、それもまた文藝別冊においては希有な特集の組み方のような気がし、そして、くどいようだが、一週間のパプアニューギニア取材までを実現する贅沢さに羨望の眼差しを向けてしまうわけで、自分も極々たまに文章を書いたりする仕事を頼まれるものの、「取材旅行」などと云う話の出たケースは無く、せいぜい一泊二日で遠方へ連れ出され、出掛ける直前までは同行の人と「現地で美味しいものを食べましょう」などと騒いでいるが、実際に現地に着くと「和民の他にはフィリピンパブしかないです」とか云う結末ばかりである。

一週間のパプアニューギニア取材も含め、いろいろと「ズルいなあ」と思いつつ『諸星大二郎 マッドメンの世界』を眺めていたが、諸星大二郎さんによる紀行文に「ただ蚊は多くて、マラリヤ蚊もいると聞いていたので、蚊取り線香は欠かせなかった」と記されており、虫が大嫌いで苦手な自分にとってパプアニューギニアは苛酷な場所だと気付かされ、自分が取材へ出向いても大丈夫な場所は、せいぜい「パプアニューギニア パブ」とかではなかろうかと思うわけで、しかし、敏腕編集者が担当してくれれば豪華特集の企画を実現できるかもしれず、それなら何かの媒体に告知を出して敏腕編集者を募る必要があるわけだが、採用の基準は甚だ厳しい。「採用条件:穴沢優子さんであること」。

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