2.5へ近付く ―アルマイトの栞 vol.207
マンガやアニメやゲームを原作とする舞台の公演が増えていることに気付いたのは、たぶん2003年頃なのだが、自分とは接点の少ない公演ジャンルなのか、そのジャンルの動向をあまり知らないままボンヤリと過ごし、「2.5次元」と呼ばれる公演ジャンルなのだと漠然と知って、「それは原作ファンが喜ぶだろう」とか思っていたら、いきなり雑誌ユリイカが今年4月の臨時増刊号で『2.5次元 2次元から立ちあがる新たなエンターテインメント』なんて特集を組むものだから、どうもタダならぬ盛り上がりぶりのジャンルらしいと今さら気付く酷いノロマの自分で、1938年の小説など読み耽って喜んでいる場合ではない。
それでユリイカ臨時増刊号『2.5次元』を手に取って開けば、自分の知らぬ間に『ミュージカル・テニスの王子様』が10年以上に亘って大盛況を続けている事実を教えられ、こうなると原作の『テニスの王子様』全42巻を読まなければならないような強迫観念を抱くものの、そのためには大きな障害が一つ横たわっており、自分はテニスのルールを全く知らないのである。それゆえ『テニスの王子様』を断念すると、次に挙がる2.5次元の舞台作品は『弱虫ペダル』らしく思われ、こちらも原作のマンガすら読んでおらず、物語は高校の自転車競技部の試合を中心に描かれているらしいが、自分は自転車競技のルールを全く知らないのである。ことほどさように、自分にとって2.5次元への道のりは遠い。
いっそ、自分で2.5次元の何かを画策したほうが早いのではないかとすら思え、たとえば吉田戦車さんの『伝染るんです。』をミュージカル化できないものかと考えたりするのは、作中に「テニス」ではなく「タニス」と呼ばれる奇怪な競技が登場するがゆえの思い付きなのだが、「タニス」は競技者が全裸らしいので舞台上演には相当な困難が予想され、のみならず、不必要であろうと何であろうと歌や踊りの要素を加えなければミュージカルにはならないわけだから、これはこれで悩ましさを増すばかりだし、だいいち、極めて重要な点を見落としていたのだけれど、「タニス」のルールがドンナものなのか作中に描かれておらず、これは吉田戦車さんに責任を取ってもらう必要がある。
自分で2.5次元の作品を画策するなら、原作から何から全てをオリジナルで賄えば面倒は無く、そう云えば、二年前に舞踏家の細田麻央さんを煽って始めたYouTube舞踏公演『galacta』は、「上演空間を映像の中へ移そう」がコトの発端で、この発想も「一種の2.5次元」と主張したいが、いくぶん説得力に欠けるのは、やはり原作マンガが存在しないからだと思われ、それなら今から細田麻央さんを主人公にしたマンガを描き、YouTubeの『galacta』と同じく「愛猫も登場!」ならマンガとしても人気沸騰かもしれず、マンガのほうが二次作品となる点で世の「2.5次元」とは逆だが、そこは「2次元へと横たわる本末転倒な2.5次元エンターテインメント」と真っ直ぐな瞳で宣言して強行突破だ。
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