長い暗誦 ―アルマイトの栞 vol.190
1976年に発表された諸星大二郎さんの『暗黒神話』は、集英社文庫版の裏表紙に記されるとおり、「かつて漫画界を瞠目させた空前絶後の古代英雄冒険譚!!」だが、登場人物の誰もが凄まじく物知りな点にも瞠目してしまうわけで、その物知りぶりは、重要な脇役の菊池一彦と大神美弥が交わす会話にハッキリ現れる。唐突に一彦が「『魏志倭人伝』は知ってるか?」と問い、美弥は「ばかにしないで! 暗誦できるわ」と答え、即座に一彦が返す。「いってみろ」。人生で一度でも魏志倭人伝を「いってみろ」と命じられることがあるだろうか。それとも、魏志倭人伝くらい暗誦できないとマズイのだろうか、オトナとして。


フラフラとタワレコへ入っては、そのバンドのCDが置かれた棚の前を行きつ戻りつし、amazonへアクセスしては、そのバンドのアルバムを試聴し、そんなことを何ヶ月も繰り返した挙げ句に、「ドレスコーズ」の2ndアルバム『バンド・デシネ』をamazonで注文し、しかもDVD付きの初回限定盤に手を出し、のみならず、どうせならと、1stアルバム『the dresscodes』も「カートに入れる」をクリックしてしまい、これもDVD付きの初回限定盤を選んでしまう自分が居て、明らかに、ここ数ヶ月ばかり続いたamazonの「地道な誘惑」に完全に敗けた、と云うか、見事に転がされているが、コトの発端の責任は自分にある。
やはり、それほどまでに論じたい人が多いテーマだったのかと思わざるを得ない雑誌ユリイカの臨時増刊『総特集 イケメン・スタディーズ』をパラパラと眺めれば、ここぞとばかりに「イケメン」の容姿に関する議論や考察が繰り広げられ、人の顔を取り挙げたうえで縦横無尽に論を説き起こす内容は、ナンシー関さんの『小耳にはさもう』以来の快挙ではなかろうかと勝手なことを考えたりしたが、何の根拠も在るわけではなく、ナンシー関さんの彫った「消しゴム版画の滝沢秀明」を思い出しただけだ。そして、ちょうど「どこかにイケメンは居ないか」と探している最中でもあるのだが、決して私的な動機からではない。
