Tetra Logic Studio|テトラロジックスタジオ

建築・舞台芸術・映像を中心に新しい創造環境を生み出すプラットフォームとして結成。プロジェクトに応じて、組織内外の柔軟なネットワークを構築し活動を展開。

長い暗誦 ―アルマイトの栞 vol.190

140926.jpg 1976年に発表された諸星大二郎さんの『暗黒神話』は、集英社文庫版の裏表紙に記されるとおり、「かつて漫画界を瞠目させた空前絶後の古代英雄冒険譚!!」だが、登場人物の誰もが凄まじく物知りな点にも瞠目してしまうわけで、その物知りぶりは、重要な脇役の菊池一彦と大神美弥が交わす会話にハッキリ現れる。唐突に一彦が「『魏志倭人伝』は知ってるか?」と問い、美弥は「ばかにしないで! 暗誦できるわ」と答え、即座に一彦が返す。「いってみろ」。人生で一度でも魏志倭人伝を「いってみろ」と命じられることがあるだろうか。それとも、魏志倭人伝くらい暗誦できないとマズイのだろうか、オトナとして。

ともかく、一彦の「いってみろ」などと云う無茶な一言を受けて、美弥は何の前置きもなく「南して 邪馬台国に至る 女王の都する所 水行十日 陸行一月」と、魏志倭人伝の暗誦を始め、ナニゴトかと思うほどスラスラと続くのだが、ほんの一瞬だけ美弥の暗誦が途切れたタイミングで一彦が口走る。「どうした つづきは?」。民謡の「合いの手」みたいな雰囲気だが、ことによると魏志倭人伝には節回しが付いていて、「語る」のではなく「唄う」ように暗誦しないといけないのかもしれず、そうだとすれば、節目節目で誰かが「えんやこらせ どっこいせ」とか発声することになって、すると、魏志倭人伝のメロディーは河内音頭と同じになる。

そもそも、いま現在の自分などは、何かを暗誦できるかと問われても、ほとんど何も暗誦できないように思うわけで、過去を振り返れば、受験生の頃に「元素の周期表」だとかを暗誦できたはずだけれど、そんな記憶は異次元の彼方に消え去って、かろうじて残る周期表の記憶は「一番最初が水素だった」くらいの切ない有り様なのだが、いまさら「元素の周期表」を暗誦できるようになったところで何の役にも立たない気がし、けれども、そうなると、いま現在の自分が確実に暗誦できるのは「氏名と自宅の住所と電話番号」くらいで、それでは迷子の子どもだ。いっそ、「元素の周期表」を逆さまに暗誦できるようになるのはどうか。何が「どうか」なのか知らないが。

むしろ、この機会に、魏志倭人伝を「ばかにしないで! 暗誦できるわ」と公言できるようになると、古代史の本を読む愉しさも増すと思い、岩波文庫『新訂 魏志倭人伝』を買おうかと検索したら、魏志倭人伝の全文が掲載されたサイトを見付けてしまい、ツラツラと眺めたものの、これを丸暗記するのは大変そうで、やはり、こんな場合はメロディーを付けたほうが暗記しやすくなると考えるのだが、何かの替え歌にせよ、この「歌詞」に合うメロディーを見付けるのは容易でなく、残る手段は、ラップだ。4つ打ちキックドラムに乗せ、「南して YA!邪馬台国に、至る IT ALL!」とかの勢いで延々と作り、リリース記念にクアトロかAIRでライヴを敢行すれば、この一曲だけでもオールナイトだ。

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