妖怪をあきらめて ―アルマイトの栞 vol.191
子どもたちのブームに便乗するわけではないけれど、講談社文庫に加わった水木しげるサンの『決定版 日本妖怪大全 妖怪・あの世・神様 』は、本自体が「文庫本の妖怪」なのかと思う厚さ4cmのシロモノで、そこに巻き付いた帯には「遂に出た! 枕にもなる!」と、妖怪の甘言らしい文字が躍って人を化かす気らしく、しかし重要なのは「決定版」の文言である。決定してしまったのだ。日本の妖怪に関して事典を編むことは、もう誰にも許されない。なんか、日本中の子どもに「あきらめ」を教えてるみたいで気が引けるのだが。少なくとも、「将来の夢は妖怪の仲間に加わることです」と卒業文集に書いても、もう遅いヨ。
そして、「することが無くなったら隠遁して妖怪変化の仲間入りをしようか」などと考えていた自分の夢も水泡に帰すよりなく、なにせ「これで決定」と水木センセイに宣言されたら、打つ手は皆無であり、どうやら本の帯に記された「この世に跋扈する魑魅魍魎764、あの世の光景19、神仏112!」が最終的に決定した数で、どんなに不服を述べても、「妖怪」と「神仏」は、誰もが将来の夢から除外せざるをえないジャンルだとハッキリした記念すべき2014年である。人々に残されたのは、「あの世の光景19」を眺めて来世の「予習」をすることだけとなり、すると「予習」と称して「いま『地獄』がマイブーム」と発言された鬼才みうらじゅんサンは、やはり正しかったのだ。
だから「あの世の光景19」を熟読することになって、読めば読むほど、「地獄」に限らず、「あの世」の類は「不気味な場所」か「凄惨な場所」ばかりだと気付き、加えて、「地獄」の場合は煩雑な「手続き」みたいな事柄が次々に立ちはだかるらしく、てっきり「閻魔大王の裁判だけで全てが決まる」と思い込んでいたものだから、よもや「書類審査」なんて手続きが存在しようとは予想すらしておらず、そのうえ次から次へと、不動明王を始めとする様々な「担当者」の「審理」を受けて進むのだと知ってしまうと、「待ち時間が長いんじゃないか」と不安を覚え、もし「地獄」の予備知識が無ければ、「次の窓口はどこですか?」とウロウロするに違いなく、確定申告のほうがマシである。
一方で、「あの世」の類のうち、善人のための場所は「阿弥陀の浄土」しか見当たらず、たぶん「善人は極めて少数」ゆえに唯一なのだろうけど、その「阿弥陀の浄土」では「常に百千種の音楽が奏でられ」てるそうで、愉しいのかウルサイのか判らぬが、ふと冷静に考えると「百千」は「10万」であるから、「阿弥陀の浄土」へ入ってしまったら、10万曲の音楽を聴かされることになり、これではiPodの64GBモデルでも容量が全く足りないし、先ずiTunes用に最低でも1TBの外付けHDが必要で、しかし、それらでフル装備した子どもが1万人ほど集結して「阿弥陀の浄土」へ押しかけ、連携して「百千種の音楽」を片っ端からMP3に変換してしまえば、「阿弥陀の浄土」だろうが楽勝で攻略できてしまう。
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