Tetra Logic Studio|テトラロジックスタジオ

建築・舞台芸術・映像を中心に新しい創造環境を生み出すプラットフォームとして結成。プロジェクトに応じて、組織内外の柔軟なネットワークを構築し活動を展開。

カオスなカバー ―アルマイトの栞 vol.192

いつだったか、日が暮れてからエレキベース弾きの友人と会って安い呑み屋を探しながらウロウロしていると、都内では珍しい銭湯の煙突を目にし、「あ、『夜の煙突』だ」と二人揃って口走り、それはカーネーションのアルバム『GONG SHOW 』に収録された名曲『夜の煙突』を揃って反射的に連想した結果なのだが、もし同じ状況で他の知人に向かって『夜の煙突』と口にしたなら、「あ、森高千里の」と返答される確率が高く、カーネーションのオリジナル曲より森高千里カバー曲のほうが有名になっていて、YouTubeで『夜の煙突』と検索すれば、カーネーションがカバーだとしか思えぬ悩ましい検索結果となる。

名曲ほど多くの人がカバーをするもので、その楽曲を作った人にとっては無上の喜びだろうけれど、楽曲を聴く立場からすれば、どれがオリジナル曲か判らない混乱の中に放り込まれる原因ともなり、えてして「誰がオリジナルか」は、呑み屋などで延々と討論される話題でもあるが、たいていはラチのあかない不毛な争論となり、そんな時に限って、居合わせた者たちがスマホで検索して調べた結果もバラバラだったりするから全くアテにならず、そうかと思えば、「あ、森高千里ヴォーカルでカーネーション演奏の『夜の煙突』PVを発見」と、混乱に拍車を掛けるようなコラボが現れ、「それって、椎名林檎の『カーネーション』のこと?」などと余計なノイズ情報を加える者も一人くらいは居る。

先週、たまたま観た演劇公演で、開演と同時に大音量のエレキギターの曲が鳴り、すぐに「ベンチャーズだ」と思ったが、どうしても曲名が思い出せず、しかも上演中に何度も同じ曲が流れ、その度に「曲名は何だっけ?」と考えていたら、同じ曲のジャズ・トランペット風アレンジの鳴るシーンが現れてアタマは混乱し、「ベンチャーズは勘違いか?、いやベンチャーズの曲だよ、高中正義もカバーしてた曲だし、『10番街の殺人』じゃなくて」と、まるで芝居に集中できず、そこへ再びジャズ・トランペット風アレンジが鳴ったら、アタマの片隅からモヤモヤした曖昧な英語らしき歌詞が浮かび、「ベンチャーズで、何で歌詞が出て来るんだ?」と困惑しているうちに、芝居は終わってしまった。

曲名が気になるまま劇場を出て、その二日後の夕方、天啓のように曲名がアタマに舞い降りた。「あっ、『キャラバン』だ!」。丸二日も費やすようなコトなのかと思うが、ともかく絡まった糸が解けた。『キャラバン』はベンチャーズの演奏も有名だが、オリジナルはデューク・エリントン作曲のジャズで、後にアーヴィング・ミルズが歌詞を付け、歌唱曲としても大勢がカバーしているから、ワケが判らなくなるのだ。ここに森高千里ヴォーカルでカーネーション演奏の『キャラバン』と、ベンチャーズのカバーで『私がオバさんになっても』が混ざれば更なるカオスに違いあるまいと阿呆なことを考えてMacの画面を眺めると、いつの間にかYouTubeの「あなたへのおすすめ」が森高千里だらけだ。

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