Tetra Logic Studio|テトラロジックスタジオ

建築・舞台芸術・映像を中心に新しい創造環境を生み出すプラットフォームとして結成。プロジェクトに応じて、組織内外の柔軟なネットワークを構築し活動を展開。

見取り図に潜むもの ―アルマイトの栞 vol.141

広い展示会の会場で、どうやら自分が迷子になってるらしいと気付いたのは、会場に足を踏み入れて20分後くらいだったろうか。街中で迷子になった場合は早々に気付くのだが、展示会の場は事態が発覚するまでに随分と時間が掛かるのだと知った。その原因は、会場内のどこを見回しても愉しいからで、目を奪われるままにフラフラと展示ブースを覗きながら面白がって歩くうちに、自分の現在地が判らなくなる。エサに釣られて簡単に罠に掛かるタイプだ。けれども、酷い方向音痴の自分としては、決して無警戒に会場へ入ったわけではない。入場する前に、高い場所から会場全体を眺め、「見渡してしまえば勝ちだ」と考えた。慢心だった。

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模写する気持ち ―アルマイトの栞 vol.140

少し以前のことだが、たまたま「広島県の三次市」と耳にする機会があって、自分は真っ先に「妖怪の聖地だ」と条件反射のように思い出し、「そこは『稲生物怪録(いのうもののけろく)』の現場だ」とか口走り、しかし、そんなことを騒ぎ立てる者は他に居ないわけで、国書刊行会が『稲生物怪録絵巻集成』を出版していると知っても、云い触らす相手さえ見付からず、とは云え、知ってしまうと気になるのは致し方ないことで、とどのつまりは『稲生物怪録絵巻集成』が自宅の書棚に仲間入りしてしまった。『稲生物怪録』の存在を教えてくれた荒俣宏さんの著作と、自分に「三次市」の話題を何度も聞かせた人々のせいである。

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チューニング用だが ―アルマイトの栞 vol.139

ソフトケースがホコリを被りっぱなしのエレキベースを、掃除したついでにチューニングしようかと思って、これもまた久しぶりのチューナを取り出したら、何やらチューナの様子がヘンだ。電池を交換しても、挙動が不可解で、もしかしてチューナが幻聴か耳鳴りに悩まされているのじゃないかと思う振る舞いをする。音叉を持ち出して、その音でチューナの様子を観察したが、これは何をしていることになるのか自分でもよく判らない行為だ。物差しを物差しで測っているのと同じで、何だか自分で自分が阿呆に思える。想像してみてほしい。部屋で一人、右手のチューナを見つめながら、左手の音叉で机や椅子を叩いて回る者が居るのだ。心配な人だ。

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長くする手口 ―アルマイトの栞 vol.138

本の奥付とか映画のエンドロールとか、何であれ「クレジット」の類を、ともすれば本編以上にジッと見つめる傾向があり、花輪和一さん『刑務所の前 』の奥付に表記された「消しゴムかけ=白石幹人(小学館)」などは気になって仕方がない。無闇と情報量の多いクレジットに惹かれる自分で、それゆえにYouTube公開の映像『半村良の空想力』は約24分の本編中、3分46秒がエンドロールになってしまい、自分でもどうかと思うが、更に今さら「出典に『不可触領域』を忘れた」と悔やんだりする。インタビューに登場する画家の岩永忠樹さんは、『不可触領域』の登場人物「岩永」のモデルだった。忘れていた。あと2秒、エンドロールを長く出来たのだ。誰も取り合ってくれそうにない悔悟である。

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PV ―アルマイトの栞 vol.137

音楽を売るために、楽曲に映像を加えた、いわゆる「PV」と呼ばれるものを最初に誰が作り始めたのか、詳しい事情は知らないのだが、少なくとも深夜のCDTVを観ている限り、演歌であろうとPVらしきものは存在し、それは当然のことのようになっているわけで、ふと素朴に考えたとき、誰が何を目論んで思い付いたのかと、どうも気になる。カウリスマキが監督した映画『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』に触発された誰かが作り始めたとか云う説が流布していたら、たぶん間違いなく「都市伝説」の類だ。ところで、「レニングラード」と入力すると、強制的に「サンクトペテルブルク」と修正変換したがるのを止めさせる方法はないのか。

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