色の残し方 ―アルマイトの栞 vol.121
鈴木一琥さんのダンス公演『3.10』はどうにか終演。御来場頂いた皆さま、ありがとうございました。それにしても、照明の色が気付けば赤系統ばかりになっていた。「意識的に無意識」な照明プランを作ったら、そのようなことになった。どうも、放っておくと自分は赤系の色を選ぶ傾向にあるらしいのだが、『3.10』公演の一週間ほど前に映像作家のOさんと一緒に作業した映像編集が影響したような気もする。半村良さんの作品にちなむ場所を歩いて撮影した映像をコラージュ風に編集することを試みる中で、赤系統の色だけを残すシーンを混ぜてみたりする実験を延々と繰り返していたのだ。気付かぬうちに映り込んでいた派手なピンク色の家がいきなり目立ったりする。どんな趣味の家なのか。

公演本番の一週間前になって告知めいたことを書くのもどうかと思うが、今年もTetra Logic Studioは鈴木一琥さんのダンス公演『3.10 10万人のことば』の舞台照明を担当します。この公演の照明を担当するのは今年が三回目だ。会場となる
身近にあるだろう音を録って編集中の映像に入れようと思ったが、さもない筈のその音が意外と見付からない。それで、いっそのことシンセサイザーでその音を作ってしまおうと考えたものの、自分の所有しているシンセはあまりに旧く、音声ファイルに変換する作業が厄介である。どうするべきかと悩んでいたら、ネット上にフリーウェアのシンセソフトを見付けた。アナログシンセのシミュレータだ。目前の作業とは無関係に、ときめいた。CGで再現された操作パネルの材質感のリアルさはなんだ。そこまで必要なのか。材質感はシンセの本質ではないが、「リアル」を追求するのがシミュレータの本分だ。きっと担当デザイナーが口走ったのである。「景気付け、景気付け」。

