Tetra Logic Studio|テトラロジックスタジオ

建築・舞台芸術・映像を中心に新しい創造環境を生み出すプラットフォームとして結成。プロジェクトに応じて、組織内外の柔軟なネットワークを構築し活動を展開。

装画もやります ―アルマイトの栞 vol.27

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以前、「装丁の仕事を引き受けた」と書いたが、その仕事が本格的な製作作業に入っている。「装丁」と云うよりも、正確に云えば表紙と全10章の各章扉の装画製作だ。著者の「M先生」と書いていたのは溝口明則さんのことで、日本建築史・東洋建築史を専門とされている研究者である。アンコールワットの修復にも関わっている方だ。装画をさせていただく著書のタイトルは『古代建築技術における数の世界』。「数」は「かず」と読まずに「すう」と読んでください。このタイトルも様々な意見があったのだが、おそらくこれで最終決定になりそうな様子である。出版社は鹿島出版会。で、チマチマと絵を描き続ける夏なのだ。

この仕事を引き受けた当初、なんとなくIllustratorでデジタルに創ることをイメージしていた。しかし最初の打ち合わせで溝口さんと鹿島出版のKさんにお会いした際、僕の過去約20年に遡る作品集を持参したところ、意外なことに手描きのペン画を二人が気に入ってしまった。メカニカルなものや空想画風の絵をフリーハンドで描いたモノクロのペン画が幾つかあったのだが、それが何故かヒットしたんである。それで、「この路線で」と云う話になった。デジタルな作業も好きだけど、本来的に僕は「絵描き」なんで、やはり自由に手を動かすことの方が悦びは大きい。嬉しい仕事になったな。

とは云え「装画」と云うのは難しい。本のタイトルや各章のタイトルが絵のテーマになるわけで、特に今回のような「学術書」的なものは、内容に対する誤解を招かないような絵にする必要がある。そんなわけで、実際に使われるかはわからないものも含めて随分とたくさんの絵を描いている。そうして出来上がった作品のうち、「これ」と云うものを溝口さんとKさんにスキャン画像で送って、意見をもらって、また描くと云う作業の繰り返しである。いつもは自分で好き勝手に作品を創る僕だけど、たまにはこうして誰かからテーマを与えられて創ると云うのも面白くて刺激的だ。自分の勉強にもなるしね。モチーフを探して調べ物をしたり本を読んだりするのも愉しい時間だ。

描き始めた頃は、どうしても「学術書」と云うジャンルが重くのし掛かっていたのだけど、ある時ふと思ったのである。「これもまた物語である」と。学術書や論文にだって当然「ストーリー」と呼べるものはある。それを一種の「物語」として読み、そこから装画のイメージを引き出せないだろうかと考えたわけである。喩えて云うなら、もしこの『古代建築技術における数の世界』を舞台作品に仕立てるとしたら、どんな演出や美術が面白いだろうかと考えて、そのイメージを描いてみようと思ったのだ。すると突然、堰を切ったようにイメージが浮かんで、白い紙には次から次へとインクが拡がり始めた。溝口さんもKさんも面白がってくれたようだ。この方向で進めようと思うものが掴めた瞬間である。

各章の扉の装画はどうにか決まりそうな感じだが、表紙の装画がまだ確定していない。一応の第一候補となる作品は出来たものの、ともかくまだまだ描かないとな。なにせ「表紙は顔」だ。カッコイイ顔にしたいじゃないか。いくつか原稿の締切も抱えているのだけれど、いまは完全に自分本来の「絵描きモード」に入ってしまっている。個展の前の気分に少し似てるな。『古代建築技術における数の世界』は今年の秋に刊行予定だが、きちんと本のカタチになったら、またあらためてここでも紹介しようと思う。装画の原画展なんかをやっても面白いかもしれない。そして、こんな仕事が他にも増えたら好いなと思ったりする。美術家としてのアイデンティティを取り戻しつつある猛暑の作業場である。

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