意外にも図星 ―アルマイトの栞 vol.215
おそらくデタラメかと思われる漢詩の五言絶句だか七言律詩だかみたいな文字がサイケデリックな極彩色のTV画面に映り、それを朗々と訓読するナレーションの声が松尾スズキさんだったと云う奇態な夢から目覚めてみれば深夜の2時38分で、ことほどさように自分のアタマが不可解な状態に陥っている原因は、「女王蜂」のアルバム『奇麗』を繰り返し聴いたからではないかと推察され、アタマの中にパンクスな紫色の煙が充満している気分の今は9月初旬の深夜2時47分なのだが、このまま『奇麗』をヘッドフォン爆音で聴いてみようかと迷うものの、だから不眠が一向に改善しないのだと疑われもする一週間だ。
まるで突然に始まる恋かのように、自分は「女王蜂」にハマってしまい、アルバム『奇麗』と併せてEP盤『失神』も同時購入する勢いで、そんな衝動買いに走ったのは、「女王蜂」を率いる「薔薇園アヴ」と名乗る謎の人物に驚愕したからではないかと思われるのであって、そもそも人は、得体の知れないものに出くわした時、その対象を凝視してしまう他に為す術が無く、驚くことすら忘れてしまうものだけれど、初めて「薔薇園アヴ」と名乗る人物を目にした自分は、まさに凝視するばかりで、「驚き」は時を遅くして訪れたのだが、その「驚き」は、十代前半の頃に雑誌『ムー』だったかで読んだ「上杉謙信は女性だった」説に対する驚きと同種な気がする。
自分に「女王蜂」の存在を吹き込んだのはAmazonで、色々な商品を列挙しては人の物欲を刺激する「おすすめ商品のご案内」メールの中に、いきなり「女王蜂」のアルバム『奇麗』が現れ、そこには「衝撃の活動休止宣言以来、3年ぶりとなる女王蜂のオリジナルフルアルバムが完成!」とか書かれていたが、「衝撃の活動休止宣言」以前に、自分は「女王蜂」なんてバンドの存在を知らず、「何の話だ?」と無視したものの、その後も執拗に「女王蜂のオリジナルフルアルバムが完成!」と同じメールが届き、何度もジャケット画像を見ていたら、「両目から紫色の煙を吹き出している人は誰だ?」と気になり、この瞬間に「薔薇園アヴ」を名乗る人物の罠に掛かった。
それにつけても奇妙なのは、自分の購買履歴をどのように活用したら「女王蜂」を「おすすめ」する展開に至るのか、その理由が判らず、コトによると、誰か他人が自分に「なりすまし」をしてAmazonで商品検索をしてやしないかと一抹の不安を覚えるが、自分自身が夢遊病のような振る舞いで無意識にAmazonのページを徘徊した可能性も有り、自分の閲覧履歴を延々と眺めてみた。「N’夙川BOYS」。この人たちのアルバムが原因としては相当に怪しい。確かにホンの一瞬だけ閲覧した記憶がボンヤリと残っているけれど、しかし、その一瞬をAmazonは見逃さず、「薔薇園アヴ」と名乗る人物を自分に紹介し、「お仲間ですぜ」と囁き、図星だったのが悔しい秋の始まりである。
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