Tetra Logic Studio|テトラロジックスタジオ

建築・舞台芸術・映像を中心に新しい創造環境を生み出すプラットフォームとして結成。プロジェクトに応じて、組織内外の柔軟なネットワークを構築し活動を展開。

借りた本 ―アルマイトの栞 vol.184

つげ義春さんの『無能の人』などに描かれる風景が調布あたりだろうと察しは付いていたし、作者自身をモデルとした作品も多いので、つげ義春さんが調布市内の団地住まいであろうことも見当は付き、それは神代団地ではないかと推測し、その話を映像家の大津伴絵さんに喋ったら、「いや、もっと市の南側で多摩川沿いの染地にある多摩川団地」と即答され、のみならず、つげ義春さんらしき主人公が作中で散歩するコースの詳細も解説してくれ、「僕、『つげ義春を旅する』とか持ってるんで貸しますよ」と、文献まで教示され、卒論の指導をされてるダメ学生みたいな気分だ。「詳しい人」の前では、誰もがダメ学生である。

そして翌日、『つげ義春を旅する』と、つげ義春さん自身の紀行文を集めた新潮文庫版の『新版 貧困旅行記』『新版 つげ義春とぼく』が大津さんから宅配便で届き、参考文献を自力で見付けられずに指導教員の蔵書に頼る留年しそうなダメ学生そのままの様相だが、ともかく、これらの文献を読み、つげ義春さんの『無能の人』などに描かれた調布近辺の詳細を知ることができたのだけれど、じつのところ、これらの本は、調布の話題よりも日本各地の温泉宿巡りの話題が圧倒的に多数を占め、大津さんは、まさか自分を温泉旅行へ連れ出そうとか企んでいるのではあるまいな。温泉地の宿場町を撮った写真の掲載ページが、必ずシッカリと角を折られているので、不安になる。

そうかと思えば、栞の代わりにしたのか、見ず知らずの誰かの個展のDMハガキが、『新版 貧困旅行記』に挟まっており、ふと、自分が過去に何度か開いた個展のDMハガキも、今頃どこかで栞としての充実した日々を過ごしていたりするのだろうかと想像し、次にDMを作る機会があったなら、最初から栞の形状に作成したほうが、受け取った相手からイヤがられないと悟ったわけだが、それはともかく、わざわざ栞よりも目立つハガキを本に挟むのは、その箇所が相当に気になったからだと推察され、それは山梨県の上野原市にあるらしい「犬目宿」とか云う場所について書かれたページで、地理が極度に苦手科目の自分には全く未知の場所ではあるものの、ここが大津さんの「一番のオススメ」らしい。

それでGoogleマップなどを調べ、日帰りもできそうな場所だと思いながらカチカチと地図をクリックして拡大していくと、意味ありげな名称が現れた。「君恋温泉」。何も気付かなかったことにしようと、『新版 貧困旅行記』を閉じたら、カバー裏表紙にボールペンで走り書きされた文字を見付けた。「ゴウコン」。君恋温泉で合コンの計画が密かに進行しているような、謎めいた事態に困惑し、すると夜半過ぎに大津さんから携帯メールが届いた。「つげ義春マップを作りたい」。何かの罠ではないかと怪しみ、この際、舞踏家の細田麻央さんと御家族も誘って、『つげ義春の旅を踊る』とか題した映像の企画を捏造し、一泊ロケの話にスリ替える案を思い付いたが、もしや、それが指導教員の狙いか?。

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