Tetra Logic Studio|テトラロジックスタジオ

建築・舞台芸術・映像を中心に新しい創造環境を生み出すプラットフォームとして結成。プロジェクトに応じて、組織内外の柔軟なネットワークを構築し活動を展開。

ジャンルが変わる ―アルマイトの栞 vol.183

「音楽はジンタっぽい曲がいいなあ」と頼まれたような気もすれば、それは依頼ではなく、単なる独り言だった可能性もあるのだが、いずれにせよ、一年前の雑談めいた場で耳にしたことだから、時間の経過する中で「ジンタ」が「トルコの軍楽」に置き換わったとしても、「なんか似たようなものじゃないか」と暴論を展開して切り抜けられるような気がしたもので、『オスマンの響き~トルコの軍楽』のCDを数年ぶりに聴き、「似たようなものじゃないか」は必ずしも暴論ではないように思うものの、この音源のためにオスマン・トルコ軍楽隊の演奏を'70年代に現地録音した小泉文夫さんのような研究者からは激怒される。

「音楽はジンタっぽい曲がいいなあ」と口走ったのは舞踏家の細田麻央さんで、YouTube公開中の舞踏映像作品『galacta』の映像収録をしている現場での発言だったから、カメラを覗き込んでいた映像家の大津伴絵さんも耳にしている筈だが、たぶん大津さんは「え?、ぜんぜん記憶に無いなあ」と好都合な忘却をしてくれる確率が極めて高い。唯一の不安は、「ジンタっぽい曲がいいなあ」と発言している休憩中の麻央さんまでカメラが収録していたりすることで、それは発言の確実な証拠に他ならないわけだが、大津さんのカメラとMacの間には、撮影した動画ファイルの消え失せる謎の空間が漂っており、きっと麻央さんの一瞬の呟きなど消え去っているに違いなく、そう願おう。

「ジンタっぽい」の一言が、理解しやすいようで、じつのところ難しいのは、漠然と「チンドン屋が演奏してるような曲」としか思い付かないからで、さらに、そう思った瞬間にアタマの中に鳴り響くのは、チンドン屋の演奏でしか聴いたことがない『美しき天然』とか云う曲名の「昔のサーカスの音楽みたいなアレ」だけだ。あの一曲だけではなかろうと思ったが、調べるアテの妙案も浮かばず、なんとなく広辞苑を開いた。「じんた:大正の頃、サーカス・映画館の客寄せや広告宣伝などに、通俗的な楽曲を演奏した少人数の吹奏楽隊とその吹奏楽の俗称」。見事なまでに過不足のない的確な説明だ。欲を云えば、「トルコの軍楽に似ていなくもない」と追記してくれないか。

「似ていなくもない」と云うか、「似ているような気がしなくもない」と、少し弱気になりつつ、「ジンタっぽい」を「トルコの軍楽っぽい」へとスリ替える方便を考えながら、Macで『galacta』続編用の音並べをしていると、麻央さんからメールが届いた。「ビヤダルボルガも素敵かも」。それは『ビヤ樽ポルカ』の間違いではないでしょうか。『ビヤダルボルガ』なんて曲は知らない。それとも、これは何かの啓示か?。『ビヤダルボルガ』とやら云う楽曲を作ったところで誰からも文句の出ようはなく、自分で『ビヤダルボルガ』と吹聴して回れば、「ビヤダルボルガ:舞踏映像などに、ジンタとトルコ軍楽を混同して鳴らされた錯誤的な楽曲まがいの騒音」と、広辞苑に載る、90年後くらいに。

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