Tetra Logic Studio|テトラロジックスタジオ

建築・舞台芸術・映像を中心に新しい創造環境を生み出すプラットフォームとして結成。プロジェクトに応じて、組織内外の柔軟なネットワークを構築し活動を展開。

表記に値する ―アルマイトの栞 vol.168

レンタルした’77年の日本映画を観ていたら、スタッフとして「音楽監督」とは別に「シンセサイザー演奏 深町純」の表記が現れ、名前の字面に見覚えがあるような、けれども詳しく知らない人だったので、田中雄二著『電子音楽in JAPAN』の索引を調べた。あった。凄い本だと思う。過去に何度も同様の疑問に遭遇し、この本の索引を調べ、すると必ず答えが見付かる。A5版587ページ、二段組み本文にギッチリ詰まった約6ポイントの文字、欄外に掲載された機材とアルバムジャケットの写真群、巻末に年表も付いて、本の厚さは辞書と見まごう5cmだ。「一家に一冊、必携!」の価値は冠婚葬祭マナー本に勝る気さえする。

深町純さんは、’80年前後に何枚かのアルバムも出しているようで、『春の夜の夢』『フュージョン・シンセサイザー』などはともかく、『SF落語 桂米丸』って、どんなアルバムだろうか。堂々と東芝EMIから’79年に出ている。『電子音楽 in JAPAN』の解説によれば、「星新一の創作落語を桂米丸が脚色、深町純がシンセサイザーによるBGMを付けたレコード作品」だそうだが、「出囃子からして、ジョン・ウィリアムズ風で始まり途中でお座敷小唄風になる」って、やはり、どんなアルバムだろうか。つまり『スター・ウォーズ』のオープニング曲が、途中から「富士の高嶺に降る雪も」のメロディへ展開すると思えば好いのか?。どんな曲だ、それは。アルバムを所有する人が居たら、聴かせて欲しい。

思うに、音楽監督や指揮者と並べて「シンセサイザー演奏」とクレジット表記するほどに、シンセを操ることが’80年前後の時代においては特殊技能だったわけで、つまり「それを出来る人は極めて少数だよなあ」が、クレジット表記に値する役割である。YouTubeで公開を始めた細田麻央さんの舞踏映像『galacta』にもエンドロールのクレジットを表記しているが、「それを出来る人は極めて少数だよなあ」と視聴者を唸らせるようなスタッフの役割が無い。今さら「シンセサイザー演奏」と書いても、希少な感じはゼロだ。そう気付くと、クレジット表記に値する希少な音楽パートを採り入れたくなった。例えば、「歯ギター」。ヘヴィメタの人がエレキギターを歯で掻き鳴らす、アレだ。習うのですかね?。

だがエレキギターじたいが珍しさに欠ける。楽器と技能の両方に希少感を求めたいところだ。「ノーズ・フルート」はどうか。『平凡社 大百科事典』11巻の811ページに、写真付きで記述がある。「歌口に鼻孔を押しつけ、鼻息で吹き鳴らすフルートの総称」だ。写真には、険しい表情で口を真一文字に結び、鼻の穴に横笛の端を押し付けている人が、確かに写っている。まるで「慌ててフルートを構えたら鼻の穴に当ててしまった人」だが、違う。鼻息で吹き鳴らすのだ。希少感に満ちている。奏者は見付かるだろうか。見付けても、「まだ国内に楽器は二つだけで、価格は高級車なみ」とか云う’70年代のシンセと同じ状況だと無理で、対抗するなら「歯ギターで『禁じられた遊び』」くらいは要求される。

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