Tetra Logic Studio|テトラロジックスタジオ

建築・舞台芸術・映像を中心に新しい創造環境を生み出すプラットフォームとして結成。プロジェクトに応じて、組織内外の柔軟なネットワークを構築し活動を展開。

手足肩腰 ―アルマイトの栞 vol.143

2013年もTetra Logic Studioを宜しくお願いします。順番だから当然なのだが今年は巳年で、つまりは蛇だ。するとその直前の年末に、なんだか蛇の絵を描かなければイケナイような強迫観念に襲われる事態となり、けれども、蛇を描くのは難しい。この種の絵は、漫画家の諸星大二郎さんが上手く、それで『魔障ヶ岳 妖怪ハンター 』などを開いて「蛇、蛇」と呟きながら眺めていたら、つい読み耽って止まらなくなった。ダメじゃないか。それでも、「蛇」とか「蛇らしきモノ」の絵を見付け、「上手いなあ」と尊敬する。繰り返すが、蛇を描くのは難しい。蛇の何が難しいって、手足が無い。すると必然的に、肩も腰も無い。デッサンを拒絶する生き物なのじゃないか。

『魔障ヶ岳 妖怪ハンター』の174ページに、見事な蛇の絵が描かれていて、模写しようかと思ったものの、あまりにリアルな蛇の絵で、たぶんマムシなのだが、リアルなマムシを描いた年賀状は、どうなのでしょうか。もし自分が爬虫類の研究者であれば、その年賀状を受け取った相手も「仕方が無い」と諦めてくれるかも知れない。マムシの絵の下に「クサリヘビ科マムシ属」とでも書いておけば解説にはなるが、それは年賀状と呼ぶより、図鑑だ。めでたい感じが微塵も無いうえに、年の初めからそんな葉書を送って寄こす自分のアタマが疑われる。やはり、リアルな蛇の絵を年賀状に描くのは考えものだ。蛇を描くならば、図案化するかキャラクター化する必要がある。

あらためて考えると、十二支の中で手足が無いのは蛇だけだ。龍にですら手足は有り、肩も腰も有る。なんとなくのイメージで描いても、龍はそれらしくなり、実際、昨年の年賀状には、あたかもそれらしい龍のカタチを、とりたてて何の迷いも無く描いた。ラーメン屋のドンブリなどを思い出して描けば、それらしき龍の姿態になる。だが、しつこいけれども、蛇は難しい。もしも十二支の中に、蛇に加えてミミズが居たら、相当にヤッカイである。「めでたいミミズの絵」。見たことがない。すると、蛇のほうがマシだとも云える。蛇を図案化した例は古今東西にいくらでも存在するが、ミミズの図案化は知らない。広い世界に一つくらい、「ミミズを紋章にした王侯貴族」とか居ないのか。

ミミズはともかく、蛇である。そのままの姿を描こうと考えるから、蛇はヤッカイなのであって、図案化することを目指すときに思い出すのは、ウナギだ。アイツにも手足は無く、肩も腰も無い。そして、おそらく、日本中の鰻屋が「う」をウナギの姿で描いた看板を掲げている。あれは、誰が最初に思い付いたのだろうか。日本中で見掛けるのだから、著作権フリーの図案には違いない。そのアイデアを流用すると、「巳」とか「み」を蛇の姿で描けば好いのだと云うことになる。試しに、描いた。気味が悪い。その原因は、諸星大二郎さんの描いた蛇を見てしまったからだ。妙にリアルなマムシらしき蛇で「み」は、怖い。結局、蛇の姿を使う発想からは撤退して誤魔化した。向こう12年間は棚上げである。

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