Tetra Logic Studio|テトラロジックスタジオ

建築・舞台芸術・映像を中心に新しい創造環境を生み出すプラットフォームとして結成。プロジェクトに応じて、組織内外の柔軟なネットワークを構築し活動を展開。

『3.10』とスポットライト ―アルマイトの栞 vol.73

鈴木一琥さん公演『3.10~10万人のことば』は二日間3公演の全てが満員御礼で楽日を迎えました。御来場頂いた皆さま、ありがとうございました。また、事前予約でほぼ満席だったため、当日券の発行をお断りせざるを得なかった方々には失礼を致しました。

限られた設備と環境の会場で舞台作品を上演する側に立つと、今さらながらに「はじめての理科」の様相になる。今回の舞台照明を頼まれて、ギャラリー・エフの照明器具を扱った当初、一琥さんをはじめ誰しもが口にしたことは「もっとピシッと明かりを絞れないかな」だった。備品の作品展示用スポットライトは光が拡がってしまう。それをどうにかして絞り込んだ輪郭の明かりに出来ないかと、アタマの中で連想ゲームを始めたら、「望遠鏡はどう?」と聴こえた気がした。「耳の中の小人が云うのね」などと騒ぎ出したら、ことである。

とにかく、電車の中かどこかで「望遠鏡に光を通せばクッキリ丸い輪郭の明かりが出るのじゃないか」と、いきなり思い立った。それで、自宅にある小さな双眼鏡のレンズにペンライトを押しつけて点灯してみた。反対側のレンズから出た光は、壁にクッキリと丸い明かりとなった。「ああ、やっぱり」である。双眼鏡の焦点調整ダイアルを回すと、光の丸い輪郭がシャープになったりボケたりする。やはり「ああ、やっぱり」である。すぐに出掛けて探し回り、子供向け理科教材の「組立天体望遠鏡」を見付けた。1,500円で「月面のクレーターもハッキリ!」だ。このさい、月面のクレーターなんかどうでもいいのである。

近頃の舞台でかなり多く使われている照明器具に、商品名「ソースフォー」が代名詞的になっている類のスポットライトがある。一般名称は「エリプソイダル・スポットライト」だが、そんな舌を噛みそうな名前で呼ぶ人を見かけない。これは、投光の輪郭をクッキリさせたりボカシたりが容易な照明器具で、おそらくどの舞台現場でも必ず見かけるシロモノである。その基本的な原理は、細長い円筒状の胴体奥に電球があり、前方に凸レンズが二枚向かい合わせに並んでいて、レンズの焦点距離を調節することで光の輪郭も調整可能となる仕組みだ。明らかに望遠鏡の変種である。購入した組立望遠鏡に懐中電灯を突っ込んで実験すると、やはり光の輪郭は綺麗に丸いのだった。「海賊品が簡単に出来る」。すぐにロクでもないことを考えるのはどうしたものだろうか。

そんなことにかなりな時間を費やし、ではその望遠鏡が『3.10』で活躍したかと云うと、そんなことはなかったのである。ギャラリー・エフの備品の中から、同じ効果を持つレンズ付きの展示用小型スポットライトが何食わぬ貌で5台出てきて、それで「絞った明かり」の用は足りてしまった。「理科教材を使って一人で遊んでいただけ」と揶揄されても仕方のない結末である。とは云え、沸き起こった好奇心は留めようがないらしく、「スポットライトを覗けば月面のクレーターが見えるのではないか」と不可解な衝動に駆られているのだった。

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