Tetra Logic Studio|テトラロジックスタジオ

建築・舞台芸術・映像を中心に新しい創造環境を生み出すプラットフォームとして結成。プロジェクトに応じて、組織内外の柔軟なネットワークを構築し活動を展開。

か弱く繊細な公演会場 ―アルマイトの栞 vol.72

毎年この時期の恒例になったが、今年も舞踊家の鈴木一琥さん公演『3.10~10万人のことば』に参画している。今年からTetra Logic Studioは照明担当である。それでここのところ、ずっとその照明のことばかり考えているわけだが、諸々の条件ゆえに悩ましく、だからこそ愉しいのかも知れないと、倒錯した心理の中に浸りっぱなしである。つまりはアタマの中が少々混乱気味で、ときにはアナログTVの「砂嵐ノイズ」の中にでも居るような意識の状態である。「最近、どう?」などと人に尋ねられたなら、「調整中」と答えるしかない。

「小劇場」とか「小スペース」と呼ばれる場所で舞台作品を上演する時は、いつでも同様の「諸々の条件」が居並ぶわけで、『3.10』の会場「ギャラリー・エフ」も例外ではない。その名前に明らかなように、それは「ギャラリー」であって、「劇場」ではない。だから、間違っても大きなワット数の舞台照明器具を持ち込んではマズイのである。ブレーカーが簡単に落ちるのは目に見えている。なにせ20Aの会場だ。僕の自宅よりアンペア数が小さい。過去に一度、ある小劇場のブレーカーを落としたことがある。その劇場の電気容量がどれ程だったのかは知らないが、劇場の担当者が「呉々も調光卓のフェーダーを一番上まで上げないでください」と執拗なまでに念押しをした。その約束を守ったのだけれど、それでもブレーカーは落ちた。本番中ではなかったのが、せめてもの救いである。

小スペースに付き物の「諸々の条件」は他にもあるけれど、「ギャラリー・エフ」に固有な条件もある。この建物は国の登録有形文化財である。これほど悩ましい公演会場も珍しい。傷なんかを付けてはいけないことはもちろん、建物の保存状態に影響するようなことは一切やってはいけない。だから迂闊にスモークマシンも持ち込めないのである。ただでさえこれほどデリケートな場所なのに、つい最近、床の黒漆を塗り直して以前よりも美しくなってしまった。上がり込むのに足袋でも履くべきではないかと云う気分にすらなる。そしていま気付いたのだけれど、もしかしてブラックライトの使用もマズイのでしょうか。漆は紫外線で劣化が進むのではなかったか。「UVケア」を気にする公演会場はそうそうあるものではない。

「ギャラリー・エフ」は、ことほどさようにデリケートな「ヤツ」である。ここまで繊細で、しかも「か弱い」となると、ヘタな小劇場よりもかえって「人間味」がある。さらに一つ付け加えるなら「無口」だ。そう思って付き合うとなれば、こちらも神経を使うべきだろう。「がさつでお調子者」みたいな舞台スタッフに応援を頼んではいけない現場である。

雑記 | comments (0) | trackbacks (0) | このエントリーを含むはてなブックマーク

Comments

Comment Form

Trackbacks