『新装大回転玉手箱』テント入り間近 ―アルマイトの栞 vol.59
神楽坂のTheatre IWATOでは日々『新装大回転玉手箱』の稽古が続いている、らしい。「らしい」と云うのは、僕自身がまともに稽古を観ていないからなのだけど、そもそも通し稽古らしい「通し」に至っていないのだから無理からぬ話ではある。とは云え、美術の打ち合わせなどでIWATOにはちょこちょこと顔を出しているわけで、その度に稽古をしているらしい声があちらこちらから聞こえる。芝居の稽古でなければ明らかに何事かと思う奇声である。
そしてろくに稽古も観ないまま、僕は美術プランに微調整を施した絵を描き、照明の横原さんは照明の仕込み図を描いて来て、打ち合わせに臨むと作家の瑞穂さんから「ゴメン、少し芝居が変わってきて」と云われ、また微調整の宿題を抱える繰り返しだ。横原さんも稽古はまともに観ていないらしい。いかがなものかとは思うものの、まあ、珍しいことではない。しかし、「芝居が変わっていく」のは一向に構わないが、その度におそらく必要な金がドンドン増えている。大丈夫なのか。そもそも「財布」を握っているのは誰なんだ。昨日は舞台監督の森下さんと二人で幕生地問屋に出向き、急遽必要となった幕地を選んで発注したのだけど、トンデモナイ長さを注文した。メートル数まで把握してるのは森下さんと僕だけかも知れない。そしてどうやら森下さんもまともに稽古を観ていない様子だ。繰り返すが、珍しいことではない。
そんなことをしているうちに、もう木場公演にテントを建て始める日になろうとしている。そしてテントが建ったら、稽古場はテントに移るわけで、初日までの短期間にそこで芝居が固まる。はずだ。実際、舞台ってそんな状況で成立していくものである。本番の為の空間が現実に出来上がって、そこで初めて見えてくるものや気付くことは多い。小屋入りしてみなければわからないことばかりである。そしてまた、唖然とするようなことが現場で判明したりするわけだ。どれほど事前の情報収集をしようと、必ず何かがヒョッコリ「やぁ」と云わんばかりに顔を出す。それはそれで笑って乗り切るしかないんである。だって、笑ってしまうしかない事実が必ず出てくるんだから。
願わくは、テント設営の日が「降れば必ず土砂降り」でないことだけを祈ろう。
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