Tetra Logic Studio|テトラロジックスタジオ

建築・舞台芸術・映像を中心に新しい創造環境を生み出すプラットフォームとして結成。プロジェクトに応じて、組織内外の柔軟なネットワークを構築し活動を展開。

カメラと川口の日 ―アルマイトの栞 vol.52

川口駅

先々週の終わり頃から、なんだか毎日のように外に出かけては誰かに会っている。どうやら忙しいらしい自分だ。29日の火曜日は『川口百景』の打ち合わせで川口に出かけた。昼前にウチを出て、夜の11時過ぎまで川口に居たわけで、つまりこの日は「川口づくし」だった。それで、せっかくこの仕事で川口に行くのならと思い、デジカメを持って出かけた。何か川口らしいものとか、面白い光景がないものかと思ったわけだが、いきなり駅の看板にカメラを向けてしまった。たしかにこれは「川口にしかないもの」だ。しかも純粋な「川口」だ。「会津川口」でもなければ「岩手川口」でもないし、ましてや「越後川口」とか「伊勢川口」でもないのだ。潔いまでにキッパリと「川口」である。清々しいじゃないか。しかし、駅の看板も時代と共に随分と製品デザインが変わったな。これも明らかに「歴史」の移り変わりだ。

ライオン

「川口の駅前に巨大なライオンが居るんですよ」と、ある人から少し前に聞いた。確かに居た。今まで気がつかなかった。以前、『川口百景』の打ち合わせで川口に来た時にはまるで気付かなかったのである。もう二十年近く前、僕が舞踏家の和栗由紀夫さんの「好善社」で美術をやっていた頃、川口に作業場があって何度か来ていたけれど、その頃はこんなライオンは居なかったはずだ。いずれにせよ、あまりにでかいモノは人の視野とか意識に入らないのではないか。今回は探したので見つけたわけだ。まあ、「探す」ってほどのことをしなくても見つかるのだけど。考えてみれば、よく建築物のどこかにこうやって動物が「棲みついて」いることがある。カメラでこんな「動物狩り」をするのも一つのテーマかもしれない。少なくとも「考現学」的には立派なテーマである。

市民会館

「やけに大きくてヘンな形の建物だ」と思う人も居るんではないか。だいいち、窓が無い。でも「そのスジの人」が見れば、すぐに「劇場でしょ」と答えるはずだ。そう、市民会館の背面である。正面を撮らずに背面を撮ってしまったのは明らかに自分の病の為せることで、劇場とかホールを見るとすぐに裏へ回ってしまう持病があるのだ。「裏方病」とでも名付ければ好いのか、とにかく観客の視線が想定されていない部分に目が行ってしまうわけで、つまりあまり性格の好くない人の行いである。大きく傾斜している部分は舞台の真上で、専門用語で「フライズ」と呼ばれる空間なのだが、通常は傾斜せずに同じ高さで飛び出る場所だ。真横から見て建物が「L字」になるのが一般的で、では、どうしてここはこんなことになっているのか。同様の事例を他に知らないわけではないけれど、こうなってしまうには必ずワケがあり、特殊ケースであることには違いない。そもそもこの形状だと舞台上部にある吊物の機構はどんな配置で収まっているのか、ぜひとも内部を覗きたい。そう思うのも裏方病の特徴だ。

実際にカメラを持ってうろつくと、何かしら面白いテーマのありそうな川口である。この日は打ち合わせ場所を移動しながらの急ぎ足で歩いていたうえに団体行動だったから、思う存分に街を観察出来たわけではない。本当はもっと気の向くままに立ち止まったり、裏路地なんかに迷い込みたかったのだが、すでに団体行動の輪から充分はみ出している人になっていたので自重した。少しは大人になったのである。僕の勝手な主張かもしれないけれど、こうやって写真を撮り歩くなら、あまり事前の下調べなどしないで気の向くままに歩く方が面白い発見がありそうだ。なにより、その方が何かを見つけた時の喜びと云うか、印象が新鮮である。素直に愉しい。「予期せぬ発見」は愉楽になる。そして、その気持ちがハッキリと写真に現れるように思う。カメラがデジタルに変わっても、その部分だけは変わらないと感じた一日だ。

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