Tetra Logic Studio|テトラロジックスタジオ

建築・舞台芸術・映像を中心に新しい創造環境を生み出すプラットフォームとして結成。プロジェクトに応じて、組織内外の柔軟なネットワークを構築し活動を展開。

もうすぐ公演初日です ―アルマイトの栞 vol.45

26日の月曜日から『玉手箱』の劇場仕込み作業が始まった。それまで稽古場に仕込んでいた舞台空間を劇場に移す作業だ。「移す」と云っても稽古場はtheatre iwatoの3階で、劇場は1階だから作業は階段の昇り降りだけである。とは云えかなりな肉体労働になるわけで、スティールデッキの平台を大量に使う舞台空間にしてしまったことが、何だかみんなに後ろめたい。重いんですよ、スティールデッキの平台って。男性陣の役者たちは日常的に肉体労働のアルバイトをしている人が多いから、嬉々として働いていたけれど、iwatoに搬送用のエレベータでも付けたら好いんじゃないかと思った。

仕込みは仮設の客席を組むことから始めて、その次が舞台。客席については通常の組み方と変えている部分があるので多少の試行錯誤があり、舞台は舞台でやはり幾らかの調整が必要となり、まあそれなりに時間を要することになった。舞台監督の三津さんに「ここはどうしますか」と確認を求められることも多いので、とにかく僕も付きっきりである。その一方で小道具のベンチやスツールの色をどうするかと黒テントの工藤さんに尋ねられ、色を指定したら望み通りのペンキが出てきて、工藤さんと一緒に塗装作業をする。で、気をつけていたつもりなのだが、やっぱり服にペンキを付けてしまった。

午後、照明の吊り込み作業が始まった頃に、今度は役者の久保さんが、当人が舞台で持って出る小道具の一斗缶を持ってきて「これ、汚しを入れてもらったほうが好いんじゃないかと」と云う。稽古場ではあまり気にしなかったのだけど、確かに商品名もハッキリ読める比較的綺麗な一斗缶で、僕も「汚すべきかもしれない」と思った。誰かが気にするとそれが感染するんだな。それで汚しを入れることを引き受けたのだが、さてどうしたものかと思い、何の考えもなしに適当にペンキをかけてみた。しかしどうも旨くない。しばらく考えていたのだけど、ふと思いついて煙草の灰を落として擦り込んでみたらいい具合である。それでしばらくの間、一人で一斗缶に根性焼きを入れていた。塗料だけが塗料ではないと云うのは師の教えである。こんなところかなと一段落したところへ久保さんが現れて「いいじゃないですか」。ものを汚して喜ばれるのは舞台くらいのものである。

おおかたの仕込み作業はこの日のうちに終わった。翌27日も仕込み作業の残りを続けたが、この日は13時から場当たりと明かり合わせをやって、もうこちらは見ているだけ。照明の横原さんが時折「こんなかんじでどうでしょう」と訊いてくるけれど、もう僕は横原さんに任せてしまっているので、彼の好きなようにやってもらう。演出家のいない今回の公演では、僕は美術と照明のコラボレーションを横原さんとやっているつもりで、彼にもそう話しておいたし、僕としては横原さんが照明で遊べる「キャンバス」を用意したつもりなので、あまり云うことはない。彼のセンスを全面的に信じているわけだ。そして案の定、好き勝手に遊んでくれているので嬉しい。

「キャンバス」と表現するのであれば、これは役者たちに対しても同じこと。彼らがこの空間で面白く遊んでくれたら今回の美術は成功だ。シンプルだけど、それ故に遊べる仕掛けはいくらでも隠れている空間になっているので、デザインした僕ですら気がつかなかった遊び方が出現すればこんなに嬉しいことはないわけだ。明日の30日はゲネプロ(本番同様の通し稽古)。この数日でどんな舞台作品になったか今から愉しみだ。そして明後日31日から本番。是非とも多くの方に御覧頂ければと思う。チケット申し込みが未だの方は僕に連絡をください。皆さんの御来場を心よりお待ちしております。

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