Tetra Logic Studio|テトラロジックスタジオ

建築・舞台芸術・映像を中心に新しい創造環境を生み出すプラットフォームとして結成。プロジェクトに応じて、組織内外の柔軟なネットワークを構築し活動を展開。

サークルでチーズ ―アルマイトの栞 vol.219

なぜだか判らないけれど、ここのところ頻繁に本を頂き続けており、もしかすると周囲の人々から「もっと本を読め」と無言の叱責をされているのかもしれず、ついに読まねばならない本が言語学者ヤコブソンの著書などと云うところにまで行き着き、いったい何故に平凡社ライブラリー『ヤコブソン・セレクション 』を課題図書のごとく渡されるのかと途方に暮れつつ本を眺めてみれば、カバーに巻き付いた帯の背には「生涯アヴァンギャルド」と記されており、なにやらタダごとではない気がして、これが「生涯現役」だったら無視するが、「生涯」が「アヴァン」で「ギャルド」なんである、よく判らないが。

帯の文言だけで、どれだけ人を煽ったら気が済むのかと思うのは、帯の表紙側にも数多のコトバが並ぶからであって、まず最上段には大きな文字で「科学の未来派」とあり、その下段にはポイント数を下げた文字で次のように記される。「もちまえの批判精神とサークル精神で 比類なき言語科学を打ち立てた 知の前衛/巨人の全貌」。もう「気宇壮大」と云うか、大変な帯文ではあるが、どうも気になるのは「サークル精神」の一語で、どうやらヤコブソンは「サークル大好き」だったらしく、研究活動の場をロシアからチェコスロヴァキア、北欧、アメリカと移動しつつ、行く先々で「サークル」を作る「精神」の持ち主で、「サークル」とか「同好会」と相性の悪い自分は友達になれそうにない。

だから、自分は「サークル」などに属さず、一人で『ヤコブソン・セレクション』を読まざるを得ないことになり、目次をパラパラと眺めて、ともかく最も強く自分の興味を惹いた「翻訳の言語学的側面について」から読み出すと、その書き出しは次のとおりである。「バートランド・ラッセルによれば、『cheese[チーズ]という語は、チーズに関して言語面以外の知識を有していないならば、だれも理解できない』」。何を云ってるのだろうか、これは。そこを粘って続きを読むと、こうである。「しかしながら、ラッセルの根本的指針に従って『伝統的な哲学問題における言語面を強調する』となると、」。酷く目眩を覚えた。けれども、「チーズ」が大騒動を引き起こしているのは確からしい。

チーズ本人としては迷惑な話かもしれず、ことによると、チーズが「けんかをやめて」と河合奈保子の往年のヒット曲を歌い出してしまいやしないかとも心配されるものの、ヤコブソンは主宰するサークルでの大問題として、「チーズ」の語を様々な言語に翻訳することが可能か否かを険しい表情で議論しているらしく、ヤコブソンは次のような一つの結論を出す。「『チーズ』という語の意味を、言語コードの助けを借りずに、チェダー・チーズやカマンベールに関する言語外の知識からだけで推測することは不可能である」。そこまで本書を読んで、ほんの一瞬だけ、自分はヤコブソンたちのサークルに顔を出して発言したい衝動に駆られた。「とりあえず、食べてみたらイイんじゃないっすか」。

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