時間が経つ ―アルマイトの栞 vol.178
ベスト盤のアルバムを買うのは、いったい何年ぶりだろう。と、自分でも判らないことを他人に問うても判るわけはないのだが。ともかく、買ってしまったのだ、「毛皮のマリーズ」のベスト盤『MARIES MANIA 』を。しかも、初回限定盤を狙って先行予約までする、自分でも希有な行動だ。初回限定盤にはDVDが同封され、二枚組のCDと合わせて全42曲の収録となり、これらを順繰りに聴いたり視たり、ときには部分的に聴いたり視たりなどしておれば、アッと云う間に三時間くらいは経過し、時計を目にしては驚き、竜宮城に居るのかと思いこそすれ、「私は 人生複雑骨折」などと唄う曲が流れるのは、竜宮城なのか?。
繰り返し聴いたり視たりのループに陥った原因は、DVDに収録されたPVの曲が、CD収録の同じ曲と比べて、微妙に異なるテンポのように感じられ、気になり始めたからだ。どうも、音源のみで聴くCD収録曲のほうが、PVよりもホンの少しだけ速いテンポに思えて仕方なく、自分の錯覚である可能性は大きいが、けれども、だとすれば、同じテンポの楽曲でも、PVではホンの少し遅く感じる錯覚が生まれるのかも知れず、それが確かならば、その錯覚を何かに利用できないものかと思った。「何か」と書いたが、ハッキリ云えば、YouTubeで二作目まで公開して止まっている細田麻央さんの舞踏映像『galacta』の三作目以降の話だ。自分の怠惰がコトを滞らせ、いまやノイローゼ気味でもある。
「数分の舞踏映像を10編くらい並べてアルバムのようにする」とか豪語したのは自分で、それは最初の二作を公開した昨年9月の発言で、つまり7ヶ月も怠惰な自分を発見するわけで、呆れ返るばかりだ。あちらこちらで踊り続けて多忙らしいが「次は?。フフフ」とメールを送ってくる麻央さんと、よく事情は呑み込めないが「幼稚園のお遊戯会の撮影と編集の仕事が泥沼にハマって終わらない」とメールを送ってくる映像家の大津伴絵さんと、ただただ怠惰な自分が揃えば、コトは完璧に滞るのであって、これはもう「急募!、厳しいマネージャー」と叫んで回りたくなる気分だが、叫び回る時間があるなら、サッサと三作目以降の編集に着手すべきで、すると先ず、自分が音を並べないと始まらぬ。
数分の尺で音を作り、そこに映像を割り付けて構成しようと提案したのも、自分だ。「魔が差したのです」と、いまさら云えず、音を並べる作業をコツコツと進めてはいるが、自分の移り気な性格が災いして、いつしか収拾の付かない事態に陥り、「別のヘッドフォンを使えば光明が差すかも」と、意味不明の考えが湧き、新しいヘッドフォンを衝動買いし、そいつで『MARIES MANIA』を聴いてしまい、「映像と合わせると音のテンポが遅く感じられる」と、妄想かも知れぬ考えを抱き、「スピード感を出すなら、音は速く速く」と執着する作業が現れ、挙げ句の果てに自分で並べた音が自分にも聴き取れなくなり、目眩を覚え、パンの賞味期限が過ぎ、自分で構築したらしいマニアの竜宮城から帰れない。
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