Tetra Logic Studio|テトラロジックスタジオ

建築・舞台芸術・映像を中心に新しい創造環境を生み出すプラットフォームとして結成。プロジェクトに応じて、組織内外の柔軟なネットワークを構築し活動を展開。

ディスクが無いから ―アルマイトの栞 vol.159

どうにかYouTubeでの公開に至った半村良さん原作の映像『環章』だが、今回は当初からYouTube公開だけを目論んだので、DVDなどのディスクは作らなかった。アップロード用とバックアップ用で4枚ほどのディスクが存在するだけだ。昨年の『半村良の空想力』は、DVD版とブルーレイ版のディスクも作って、あちらこちらへ配布して回りさえしたが、今回の『環章』は、実質的に「ブツ」が無い。姿カタチの無いデータが存在するだけなので、「出来ました、コレです」と誰かに見せるとしたら、せいぜいUSBメモリになり、見せられた相手も困惑した挙げ句、力ずくで話を合わせる。「USBを洗濯しちゃったことがあるんですよ」。

実体がデータだけとなると、ジャケットのデザインは出来ない、と云うか、不要である。どうしてもジャケットをデザインしたいならば、デザインの作業くらいは誰も止めないだろうが、それは「もしディスクのジャケットが存在したとするなら、こんな感じです」と云うものでしかなく、「ツチノコの想像図」などと大差のないシロモノで、映像制作の過程とは全く関係が無い。それならば、いっそのこと、映像制作とは関係の無い第三者が「私は確かに『環章』のディスクジャケットを見たんですよ」と主張して、ついでに「こんな感じでした」と絵を描いてくれれば好いのだが、その目撃情報を誰が買い取るのか。万が一、その絵が秀逸なデザインだったりしたら、自分が買い取るハメになる。

強引に「DVDやブルーレイのディスクジャケット」と考えるのが間違いで、ここはUSBメモリに限定して、あの小さなサイズの「ブツ」にデザインを施し、「ジャケット」と云い張れば好い。大量生産の必要など無いから、あのサイズなら、一つ一つ手描きも可能ではあるが、ともすれば「米粒に般若心経を書く人」みたいになり、妙な誤解を生む恐れもあるので、シールを作って貼る程度が無難だ。無難な結果、あのサイズだと、100円ライターに貼られた注意書きシールに似てしまう気がする。たった1ミリ角の字で「火中に投入しない」とか書かれたアレだ。つまり1ミリ角の字で「半村良『環章』、早川書房『半村良コレクション』(1995)所収より」である。続けて、「洗濯機に投入しない」。

なにせ、ついウッカリと洗濯機に放り込まれる危険のあるUSBメモリだ。USBメモリのジャケットをデザインするならば、どう間違っても洗濯機に放り込めないことも考慮したデザインとすべきである。とは云え、これは随分と難題かもしれない。今さらUSBメモリを大型化したり、ましてや重量化するのは本末転倒だ。ふと「洗濯機がUSBメモリよりも小型化すればイイんじゃないか」と、面妖なことを考えた。むしろ現実的には、たとえ洗濯機に放り込んでしまっても、データを救う対策が講じられたデザインのUSBメモリとすべきだ。「『環章』と書いた浮き輪をUSBに巻き付ける」。ホントにそれしか思い付かず、それはそうと、ライターを洗濯してしまった話を聴かないから不思議だ。

雑記 | comments (0) | trackbacks (0) | このエントリーを含むはてなブックマーク

Comments

Comment Form

Trackbacks