Tetra Logic Studio|テトラロジックスタジオ

建築・舞台芸術・映像を中心に新しい創造環境を生み出すプラットフォームとして結成。プロジェクトに応じて、組織内外の柔軟なネットワークを構築し活動を展開。

東の重力圏 ―アルマイトの栞 vol.94

photo ダイトウノウケン よく考えてみたら、墨田の町工場での公演が終わったばかりなのに、鈴木一琥さんの『3.10~10万人のことば』公演まで一ヶ月無いどころか、あと二週間弱で本番だ。町工場での『すみだフリオコシ』の公演が済んだ夜、後日あらためて町工場の皆さんを交えた「打ち上げ」をする話になり、一琥さんが「僕はもう『3.10』が終わるまで時間が取れないからさ、その後にしてくれると助かるんだよね」と申し訳なさそうに告げ、それを他の関係者と一緒に頷いて聴いていたのだが、それは自分も同じではないか。他人事のように聴いた自分が馬鹿者だ。Tetra Logic Studioは、昨年に引き続き、今年の『3.10』も舞台照明担当です。

しかし、さらによく考えてみたら、この立て続けの公演はどちらも会場が東京の下町である。墨田区の次が台東区なわけで、それはつまり、下町住民の鈴木一琥さんと関わっているからだ。べつに、嫌がっているわけではない。昨年あたりから奇妙な気がしていて、それは一琥さんの公演に限らず、どうもTetra Logic Studioが東京の下町の方へ引っ張られる傾向にあることだ。『半村良オフィシャルサイト』とその公式ツイッターの更新に日々取り組んでも居るわけだが、その半村良さんは葛飾柴又生まれの両国高校出身で、下町を舞台にした作品も多い作家だ。そして他にも、浅草界隈へ打ち合わせに出掛ける仕事が以前から続いている。一琥さんから浅草で打ち合わせをしたいと打診され、「その日は別件が入っててね」と口にして手帖を開き、「午前中から浅草に居る」と答えたのは一度や二度ではない。

東京の下町に、なにか因果でもあるのだろうかと考えても心当たりが無く、そもそも自分の住んでいる場所は、都内の鉄道路線図を眺める限り下町とは東西軸上の正反対である。しかし、ここでさらにさらに考えれば、Tetra Logic Studioの事務所が今の場所に決まった'08年に、自分は東京の東側へ随分と引っ張られたことになる。と思ったら、Tetra Logic Studioが鈴木一琥さんの『3.10』に初めて関わったのはその前年だった。都内を横断するように西から東へ向かって打ち合わせやリハーサル、公演本番に出掛けていたので、その頃と比較するなら仕事場から浅草に行くのは随分と楽になりました。いや、そんな話はどうでもいい。コトの因果法則はまるで定かではないものの、自分を引っ張る重力圏が東京の東側に在るような気がする。

『すみだフリオコシ』の準備作業で夜遅くに一琥さん達と曳舟の周辺を歩いていたら、数階建てを丸ごと「テナント募集」と告知している貸しビルがあって、それを目にした一琥さんが「ユキさん達さ、ここに移って来たらいいじゃない」といきなり誘うのだった。唐突な発言に返すコトバを失ったら、一琥さんはさらに続けた。「ユキさん達が、下町に来ないかなって、ずっと話してるんだよね」。誰とそんな謀議をしているのだ。そして今年も『3.10』が目前に迫り、浅草に出掛ける頻度が高くなり、「別件も浅草」の日が現れ始め、明日の夜も急に『3.10』の打ち合わせが入って、やはり浅草である。こうなると、下町に縁のある複数の仕事を、いっそ一つのプロジェクトにまとめたい気分になる。半村良さんの没後10年は来年の3月だ。東の重力圏のキッカケかも知れない一琥さんが、責任を取って踊ってくれないか。

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