Tetra Logic Studio|テトラロジックスタジオ

建築・舞台芸術・映像を中心に新しい創造環境を生み出すプラットフォームとして結成。プロジェクトに応じて、組織内外の柔軟なネットワークを構築し活動を展開。

「解散」出来ない者たち ―アルマイトの栞 vol.78

あのバンドはまだ活動しているのだろうかと、ふとした拍子に誰かが話題にする状況はありがちなことだが、たいていの場合、居合わせた顔ぶれの中に明確な情報を持っている者は居ない。頼りない憶測が飛び交って、真相はハッキリせず、別の話題になり、翌日になればそんな話題が出たことすら忘れている。「音楽バンドのその後」は、労力を費やしてまで知りたいコトではないものの、気にもなるコトの典型である。だから『バンド臨終図巻』なんて本が出れば買ってしまうのは仕方が無い。'60年代から2009年までの「古今東西のバンド」の解散事情が判る本だ。速水健朗氏をはじめ5人の共著だが、この人たちが居る場で「あのバンドは・・・」と口走ったら朝まで帰らせてくれないのではと不安になる。

「その後」が気になるのは、劇団など舞台関係の集団についても同じだが、この場合は憶測すら出ないことが殆どだ。異口同音に「さあ、知らない」である。その一方で「集団の始まり」については無闇に情報が行き渡っている。それは、舞台の集団が結成されると、彼らは決まって「旗揚げ」と称して名乗りを挙げ、「旗揚げ公演」を行い、時には宣言文のようなものをバラ撒き、さらに時には本当に旗を作ったりする者たちも居るわけで、それはイヤでも人の知るところとなる。そんな舞台集団の「終わり方」があまり知られていないのは、音楽バンドのように「解散公演」と銘打った告知を殆ど見かけないからかも知れない。

『バンド臨終図巻』を読む限り、音楽バンドは「終わり方」への自意識が強い集団のように思う。舞台の集団はむしろ、「始まり方」への自意識が強く、「終わり方」には無頓着で、「結果として昨年の公演が解散公演でした」などと云う話を耳にしたりする。随分以前に、「旗揚げして、今度が二回目の公演なんです」と云う劇団から美術を頼まれたことがあった。何度か打ち合わせをし、稽古場にも一回くらい顔を出したところで、その劇団は前触れも無しに解散してしまった。「旗揚げ公演が解散公演になっちゃいました」と電話をもらった。そのデタラメさは何なのだ。

自意識の強弱はともかく、解散する点では音楽バンドも舞台集団も同じなのだが、ここでもう一つ気になるのは、解散した舞台集団は滅多に「再結成」しないことだ。音楽バンドは、解散してもいずれたいていは一度くらいの「再結成」をする。そして「解散」と同じくらいに「再結成」と銘打った告知をする。自意識の強い「解散」は「再結成」への暗黙のスタートだろうか。そうだとすれば、音楽バンドは結成された時点で、「解散」と束の間の「再結成」を目指す者たちの集団である。達観するにもほどがあると云うものだ。いっそ舞台の集団も「解散公演」と「再結成」をブームにしてみたら好いのではないかと思ったりするものの、そもそもどの集団が存続しているのかが知られていなければマズイわけで、「まだやってたんですか」ブームになってしまう可能性は高い。これでは「解散」すら出来ない。

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