Tetra Logic Studio|テトラロジックスタジオ

建築・舞台芸術・映像を中心に新しい創造環境を生み出すプラットフォームとして結成。プロジェクトに応じて、組織内外の柔軟なネットワークを構築し活動を展開。

劇団黒テント「ど」公演協力

日時:2006年10月4日
劇場:theater iwato

Tetra Logic Studioの活動分野として、演劇公演に付随する各種の支援を視野に入れて居る。舞台美術や演出としての映像・写真製作、チラシのデザイン、更には組織のネットワークを活用しての音楽製作等々等の諸々の支援である。一言で云えば、何でもしようと思っている。個人的には私の主催する創造集団Cheap Thrillの舞台公演活動も絡めていきたいと思って居る。あくまで個人的な野心として。実はもう何年も寝ている自作の台本があるのである。まあ、そんなことはどうでも好い。

そうしたさなか、黒テントの俳優である宮崎恵治氏から黒テント「ど」東京公演に対する支援要請の電話があった。当初、先に書いた諸々の支援内容を期待して打ち合わせに出向いたのだが、会ったその場でチケット販売業務を依頼され、チケット50枚とチラシ1000枚を渡された。雨のそぼ降る中、チラシ1000枚の重みに紙袋の底が抜けやしないかと心配しながら帰宅した。ヨドバシカメラの紙袋は頼りない。しかし、東京公演のチラシに「協力:Tetra Logic Studio」と明記されてしまったからにはやらざるを得ない。

50枚くらいならなんとか捌けるだろうと、自宅のMacのアドレス帳にある名前に絨毯爆撃式にメールを送ってみた。こんな場合、Bccなんかで送ると人は反応しないものだと、受け手としての経験で判断したから、各個人に対して一通ずつのメールである。主な文面は同じ内容のコピーでも、出だしの挨拶と若干の雑談には意味も無く苦労した。いったい何人に「近いうち呑みましょう」と書いたことか。いま我が家のMacは「近い」と打つと「うち呑みましょう」と勝手に書こうとするのである。だが驚くことに50枚は比較的容易に捌け、むしろ50枚を超す勢いである。そんなに知り合いが居たのか。

その旨を宮崎氏に伝えたところ、追加でチケットが30枚届いた。公演会場のtheatre iwatoは120人も入れば満員の小屋である。そのうちの80枚のチケットを実質一人で預かっている。いかがなものかと思う。
それでもチケットは売れ続けた。殆ど友人が居ない私にしては不可解な出来事である。
そうしてチケット販売枚数が60枚を超えた頃、また宮崎氏から電話があった。「他でもチケットが売れ始めたので、もう売らないでください」。

チケットを売るなと連絡してくるのも、劇団としてはどうかと思うが、ともかくその連絡に私は素直に従い、その電話を受けて以降、積極的にチケット販売はしなかった。しかし、その時点で「返事待ち」になって居る知人が居て、突然「10枚購入」なんて連絡が来るのである。宣伝するのは確かにやめたが、ブレーキは付いて居なかったらしい。チケット販売にも慣性の法則があることを私はこの歳になって初めて知ったのである。

結果としてチケットは70枚売れてしまった。他と合わせて当日は120人を優に超える観客数が予想され、仮設の客席作りに黒テントのスタッフがアタマを悩ませて居た。申し訳ない。

その仕込み作業の現場にも私は居たのである。「当日、朝9時に仕込み作業集合」との連絡を受け、Tetra Logic Studio協力者のメンバーと一緒に舞台装置の搬入や照明器具の吊り込みなんかを手伝って居たわけである。

しかし午に仕出しの弁当を食べた後は、音楽稽古や場当たりで、こちらは殆どすることが無い。部外者には手出しの出来ない段階の作業である。劇場の外のベンチで茶を飲み、煙草を吹かして無駄話ばかりして開場時間を待って居た。時折の雨模様、流れる雲、突然戻って来る陽射しに開場時間の天候を気にしつつも、劇場の前でボンヤリ過ごす時間は、多忙な劇団員には申し訳無いが、久し振りに空をゆっくり眺める機会になった。

開場時間が迫ってきて、次第に観客が劇場前に現れるのだが、見事に知り合いばかりである。当然である。自分の舞台公演や個展の時と似て居て、何だか自分ばかりが挨拶をして居る。しかし、何も挨拶をしたくて劇場の前に居たわけでは無い。「受付前での前売り行為」と云う、自分がダフ屋の様に思えることをしなくてはならない為に仕方無くである。当然、黒テントの同意は得て居るわけだが、ともかく煙草を吹かして来客を監視し、知人を見付けてはチケットを手渡し、料金を徴収した。

最終的に「ど」東京公演は150人程の観客数であったそうで、この人数はtheatre iwato始まって以来の数だと聞いた。確かにどう見ても、アクティングエリアが観客エリアよりも遙かに小さい舞台であった。満員の観客席を「人の壁」と譬える表現があるが、こんな活気を大劇場で作り出すのは明らかに至難の業である。そもそも、演者と観客の距離が違う。「人の壁」と云うより「アメーバ状の観客」である。

終演後、打ち上げを兼ねての「交流会」がtheatre iwatoで催されたのだが、その際に黒テントからTetra Logic Studioに「三代目のテント劇場設計」との話が立ち話的に打診された。そんな話をして欲しかったのである、ずっと。チケット販売集団として有能なのでは無く、モノ創り集団として目指すものがあるわけだから。まあ、チケット販売もしますが。

黒テントとは、これからも「愉快な画策」がいろいろ出来ると好いと思って居る。どう考えたって「金」にはならないけれど、演劇が「不合理と不経済」に立脚して居るのだとすれば、少なくともTetra Logic Studioの片足は「不合理と不経済」の地点に置かれるのだと思いつつ、そんな思いを抱く輩をTetra Logic Studio代表に選んだ関係者に今のうちに「ゴメン」と云っておこう。

テント芝居は河原者のエクスタシーである。

・宮崎恵治 個人サイト
宮ちゃんのブットバシテいこう!
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