Tetra Logic Studio|テトラロジックスタジオ

建築・舞台芸術・映像を中心に新しい創造環境を生み出すプラットフォームとして結成。プロジェクトに応じて、組織内外の柔軟なネットワークを構築し活動を展開。

乱歩と蔵書 ―アルマイトの栞 vol.10

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いつまで続くかと思いながら書き始めた『アルマイトの栞』も10回目である。誰か褒めてくれないものだろうか。
いや、そんな話をしようと思ったのではない。本である。人に本を二冊ほど貸すことになった。「貸すよ」と云ったまでは好いのだが、その本が部屋の中で見つからない。モノを探すのに苦労するほど広い家に住んでいるわけではない。本が多すぎるのだ。この本の量は、正直云って自分でもどうかと思う。まるで古書店である。

ある時期までは、たとえ本が多くても自分のアタマの中でそれぞれの本のある場所を把握していたのだが、どうも近頃はそれもだいぶ怪しくなってきた。「あの本を最後に見た場所はあのあたり」と見当を付けて探すのだが、無い。こう云う場合、人の記憶は「記憶」とは名ばかりで、むしろ「思いこみ」である。そして、「もし動かしたとしたら」と仮説を立て、自分の行動パターンを推理して違う場所を漁ってみる。自分で「探偵」と「犯人」を演じているようなものである。

蔵書の多さと云えば江戸川乱歩である。乱歩の蔵書目録である新保博久・山前譲編著の『幻影の蔵』(東京書籍)と云う本を見ればわかるが、この人の蔵書量は尋常ではない。その書庫は旧い土蔵なのだが、ともかく常軌を逸した本の量である。乱歩に比べれば自分の蔵書量など微々たるものだ。それでもたった二冊の本の行方がわからなくなると云うのに、乱歩はいったいどうしていたのか。

乱歩の蔵書は土蔵の中で本棚に並び、更にそれぞれの棚の手前に別の本が平積みとなって、背後にある本は見えない。これは本棚で最もやってはいけないことである。わかってはいるが僕も同じことをしている。更に溢れかえった本は床に平積みになる。これも乱歩と同じだ。この状態で探している本を確実に見つけ出すことが出来るとすれば、本のグループを明確にして、同種の本は一緒に置くこと以外にない。著者や本の分野でグループを構成すれば好いわけで、つまりは自分の書棚で図書館のようなことをすれば好いわけだ。どうも乱歩の蔵書はそのように置かれている雰囲気である。

自分でも、それなりに本のグループを構成して書棚に並べているつもりである。しかしこのグループ構成が「気分」に支配されているのがいけない。著者別とするのは好いとして、「分野」となるとかなり「その時の気分」が優先してしまう。結果として、時間が経つと本の所在がわからなくなる。実は数年前に一つの本棚が倒壊しかけたことがある。本の重みに耐えかねて、一つの棚が落ち、それが引き金になって連鎖的に他の棚も落ちたのだ。それでかなりの本を床へ平積みにしたり、他の棚へ移動したりしたのだが、思い返せばこの頃から探している本の行方がわからないと云う事態が頻繁に起こるようになった。そして今でも日々、本は増え続けている。どうすれば好いのか。

つまりは、乱歩に倣って書庫が欲しいわけである。乱歩の土蔵の書庫にある本棚は、それはそれは頑丈そうなもので、多少の本の重量にはビクともしない様子である。羨ましいなあ。どこかに手頃な土蔵か何かがないものだろうか。Tetra Logic Studioも、いずれどこかにオフィスと云うか、スタジオ的な空間を持ちたいと思っている。でもそうなるとね、僕が書庫にしてしまいそうな気がするんだよ。仕事にも有意義な本だけなら他のメンバーも文句は云わないと思うのだけれど、どうも「駄本」も多いのが実状である。「駄本」と云っては本に失礼だけど、面白半分に買って、一度読んだら二度と読まないような本ってあるでしょう。そう云う本も随分あるわけです。例えば『テロとUFO』なんて本。書店で見付けて爆笑して、つい買っちゃったんだけど、どうしてこんなバカな本を買ってしまうかなあ。

不要になった本を寄付できる青空文庫的な場所が身近にあれば、この種の本を放出しようかと思ったりもする。けれどもそう云う場所がなかなか見あたらない。まあ、自分がいらなくなったモノを一方的に寄付すると云うのも何だか失礼で迷惑な気もするが。ともかく、チョットどうにかしないと、と云う状況なのである。むしろ、誰かが蔵でも寄付してくれないだろうか。そう思いながら、乱歩を羨みつつ、一人二役で「探偵」と「犯人」の追いかけっこをしていた。

そして探していた二冊の本は、なぜか近藤ようこの『水鏡綺譚』の後ろで、よりによって荒俣宏の本の上に乗っていたのである。結界でも張ってあったのか。大量の本の群れは魔界を生み出すらしい。乱歩先生、こうなっては探偵もお手上げです。

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