Tetra Logic Studio|テトラロジックスタジオ

建築・舞台芸術・映像を中心に新しい創造環境を生み出すプラットフォームとして結成。プロジェクトに応じて、組織内外の柔軟なネットワークを構築し活動を展開。

終演後にチェック ―アルマイトの栞 vol.176

慌ただしいのか余裕なのか自分でもハッキリ判らないまま、鈴木一琥さんのダンス公演『3.10 10万人のことば』は無事に終演した。御来場頂いた皆さま、ありがとうございました。それにしても、やはり、慌ただしかったのか余裕だったのか不明で、しかし例年のとおり公演で使った音源が耳から離れず、と云うことは、やはり何度も繰り返し音源を聴いたらしく、自分の耳が「3.10専用」みたいな設定変更をされてやしないかと案じ、「耳のサウンドチェック」をすべきかと考え、ドナルド・フェイゲンの『ナイトフライ』を聴いた。劇場のサウンドチェックでは定番のアルバムで、その理由は、よく知らない。

「耳のサウンドチェックをすべき」と考えたのは、そもそも公演初日の二日前だ。照明プランの修正作業をしながらイヤフォンで音源を聴いていたら、左のイヤフォンがポロッと外れ、残った右のイヤフォンからだけの音がトッテモ遠くなって驚き、自分の耳が悪くなっているのかと不安を覚えた。あらためて左右のイヤフォンを片方ずつにして聴いても、左の音は明瞭だが、やはり右だけが遠い。いよいよ不安は募る。こんな場合はパニックに陥ってはいけない。冷静になることが重要だ。それで、イヤフォンの左右を逆にして耳に差し、そのうえで片方ずつも試すなど、大変に冷静な行動を取ったが、誰かが見たら「イヤフォンを左右逆に差したり、右のイヤフォンだけ左耳に差して考え込む心配な人」だ。

どうやら自分の耳の問題である可能性は低く、イヤフォンの右からの音が酷く遠いと判り、すると今度は、イヤフォンの具合が悪いのではないかと疑う。それで別の音楽などを聴いてみたが、とくに問題は無さそうで、こうなると、音源のデータが壊れてるのではないかと疑い始める。音源がステレオの状態とは云え、この左右の音量の差はタダ事ではないと思い、夜の稽古で音響オペレーターのKさんに尋ねたら、あっさりとした返事が戻ってきた。「今回は左右の音量バランスを、すんっごく変えてみたんですよ」。たしかに「すんっごく」違う。Kさんが公演会場に仕込んだ5台のスピーカの配置と熟慮の末の音量バランスは職人技の成果で、それを安物のイヤフォンで聴いた自分の愚かさだけが残った。

愚かさの反省も含めて、自分の耳のサウンドチェックを目的に聴く久しぶりの『ナイトフライ』なのだが、一般的にも有名な一曲目の『I.G.Y.』を耳にした瞬間に、いくつもの劇場の光景がアタマの中を走馬燈のように駆け回ってしまった。劇場での音響チェックの場に、偶然であれ居合わせると、かなりの頻度で『ナイトフライ』を耳にし、客入れ時のBGMにまで使っていた公演さえ思い出した。そんなに音響屋さんは『ナイトフライ』が大好きなのか?。『ナイトフライ』を愛聴するエレキベース弾きの友人も居て、しばらく会わない彼の顔までアタマに浮かび、『ナイトフライ』が「サウンドチェックの定番アルバム」ではなく、「想い出のアルバム」みたいなことになってしまい、困ったことである。

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