Tetra Logic Studio|テトラロジックスタジオ

建築・舞台芸術・映像を中心に新しい創造環境を生み出すプラットフォームとして結成。プロジェクトに応じて、組織内外の柔軟なネットワークを構築し活動を展開。

延長コードの気持ち ―アルマイトの栞 vol.109

鈴木一琥さんダンス公演『龍の声』は無事に終演。御来場頂いた皆さま、ありがとうございました。それにしても、舞台の世界に踏み入って随分と長い時間が経つが、今回の『龍の声』ほど自分を不安に陥れた公演は他に例が無い。不安のタネには事欠かず、その先頭に現れたのが、電気容量だ。公演会場の第五福竜丸展示館は劇場ではないのだから、舞台照明などを前提とした電気容量を備えているとはハナから期待していない。とは云え、どの程度の容量なのかを知らないのもマズイので、一琥さん経由で確認をした。一琥さんからの返事は「15アンペア」だった。信じがたい少なさに疑念を抱き、現地でブレーカボックスを覗くと契約量は150Aだった。ダンサーに電気のことを尋ねてはいけない。

しかし、まるで不安が去らなかったのは、この150Aが展示館全体の契約量であって、ここから展示館内の水銀灯やら空調、トイレのハンドドライヤー、各室の照明など諸々を差し引いていけば残りは僅かな筈で、しかも、その残りの量がよく判らないからだった。液晶プロジェクタ2台を殆どフル稼働で使う演出が決まってしまったので、舞台照明に残された電力はますます少なくなる。展示館内の電源を頼らない方が安全だが、電源車などを借りて来る予算も無い。そう思ったとき、「車だけなら借りられる」と考えた。展示館のガラス面の外からヘッドライトを点灯したらどうなるだろうかと考えたのだ。それで、試してみた。ダメだった。少なくとも、ラパンは舞台照明に不向きである。当然だ。

そうやっていろいろ試して辿り着いたのは、屋外ロケ用のバッテリーライトや懐中電灯だった。展示館の電力を気にしなくて好いばかりか、ケーブルに振り回されることもなく自由に位置決めが可能となる。上演前後の客電は、展示館常設の照明を部分的に点灯した。これは、事務室内のスイッチを操作すれば好いだけのことだ。そして、どうしても派手に見せたいシーンだけ、500Wのスポットライトを持ち込み、展示館とは別棟の事務所から30mの延長ケーブルで引っ張り出して、車のヘッドライトでは旨くいかなかった屋外からの照明にした。2台の液晶プロジェクタを除けば、展示館内のコンセントは一つも使っていない。舞台照明でブレーカを落とす心配は無くなったのだった。

だが、それと引き替えに現れた不安は、これらの照明を自分一人で操作出来るのかと云うことだ。全長33m、巾6mの福竜丸を中心に据えた展示館の広さは、概ね43m×18mである。事務室奥のスイッチを操作し、屋外のスポットライトを点灯・消灯して、館内の階高3mの階段を昇って船の甲板に乗り込み、懐中電灯をいくつも転がす・・・。困ったことに、一人で出来る段取りを考え付いてしまった。「走れば間に合う」。舞台裏の暗闇を、ひたすら走り回った。自分が「延長コード」である。それも、かなりタコ足配線をされた延長コードだ。舞台裏を走る延長コードは、公演そのものを観られないのだと初めて知った。これが延長コードの気持ちなのか。「生まれ変われるなら、スポットライトになりたい」。

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