Tetra Logic Studio|テトラロジックスタジオ

建築・舞台芸術・映像を中心に新しい創造環境を生み出すプラットフォームとして結成。プロジェクトに応じて、組織内外の柔軟なネットワークを構築し活動を展開。

作品名は罠なのか ―アルマイトの栞 vol.104

110722.jpg ある知人が云った。「半村良?。懐かしいなあ、かなり読んだよ。ほら、ナントカ伝説ってやつ」。そして今さら気付く。作品名に「伝説」が付くものだけでも随分な数があるのだ。半村良オフィシャルサイトで「半村良の仕事」を見て頂ければ判るが、「ナントカ伝説」ではどの作品だか全く見当が付かない。仕方が無いので自分が憶えている限り「伝説」の付く作品名を挙げると、相手はむしろ混乱し、その挙げ句に当の本人が思い出したかった作品は『妖星伝』だったりする。ちなみに、「伝」で終わる作品名も複数ある。実のところ、半村さん公式ツイッターの日々更新を目的に幾つもの作品を立て続けに読んだ自分が、混乱している。

混乱の原因は「伝説」と「伝」だけではない。たとえば、『女神伝説』があるかと思えば『セルーナの女神』があり、『黄金伝説』とは別に『闇の中の黄金』がある。と、書いているそばから不安になり、オフィシャルサイトで確認する。『黄金奉行』もあった。『岬一郎の抵抗』と『戦士の岬』も、ゴチャ付きはしないか。作者の半村さんが故人だから確かめようがないけれど、「何かの罠ですか」と問いたくなる。少なくとも、自分が知能テストをやらされている気分だ。これほど自分の記憶力に自信をなくすテストも無い。一つの半村作品を読み終え、次に読む作品をオフィシャルサイトで選び、仕事場に置いた6つの段ボール箱の中から本を探す。記憶に頼って最初に覗く箱はハズレが多い。

半村良さん公式ツイッターを始めた当初、同じ作品から続けてフレーズを掲載するのは避けようと思った。ともすればネタバレになるからで、それは未読の人に申し訳がない。それで、どうにか今のところは同じ作品が連続して登場することなく乗り切っているが、掲載したフレーズの末尾に出典作品名を記していると、そこに『・・・伝説』の並ぶことじたいが気になり始めた。まさかそんなことが気になり出すとは思いもしなかったので、作品名を気にせず読んでいたら、『・・・伝説』ばかりを7作品も読了していた。公式ツイッターに投稿するフレーズを自作のリストから選ぶたびに、「また『伝説』か」と誰かが思いはしないかと、被害妄想にも似た心理状態に陥る。

作品名を気にせずに選んで読んだと書いたが、では何を気にしていたのかと云うと、本の重さである。重たい本を持って歩くのがイヤだったのです。それで文庫ばかりを選んでいたら「伝説」が多かったのです。言い訳にもなりはしない。自分の選書基準がマヌケなのだ。アタマの混乱と『・・・伝説』の連鎖を断ち切るために、新潮社の単行本『二〇三〇年 東北自治区』を手に取った。しかし、別の混乱が生じた。『二〇三〇年 東北自治区』は、刊行から3年後にタイトルだけを『人間狩り』と変更されて祥伝社の文庫になっていた。同様の事例が他にもある。こうなると、半村作品を文庫で買って「あれ、コレ読んだな」と口走った人が相当数いる筈だ。やはり半村さんに尋ねたい。「みんな罠ですか」。半村作品を文庫で購入される場合は「作品名の罠」に呉々もお気を付けください。

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