Tetra Logic Studio|テトラロジックスタジオ

建築・舞台芸術・映像を中心に新しい創造環境を生み出すプラットフォームとして結成。プロジェクトに応じて、組織内外の柔軟なネットワークを構築し活動を展開。

楽日の後が落ち着かない ―アルマイトの栞 vol.95

どうにも落ち着かない日常になってしまったけれど、Tetra Logic Studioのメンバーは全員無事です。それにしても、ただでさえバタバタと落ち着かない日が続いていたのに、それが不可抗力的に延長されてしまった気分だ。「延長」される前の最後のバタバタは鈴木一琥さんのダンス公演『3.10』だが、これは無事に楽日を迎えた。御来場頂いた皆さま、ありがとうございました。「去年と同じような照明にはしたくない」とワガママを云った自分のせいで、どうも大変な舞台にしたような気もするが、一琥さんをはじめ、スタッフの知恵に助けられた。誰かが冗談半分に口走った「スマートフォンを使う」が実現したことにも驚いた。照明にも音響にも使えるスマートフォンだったが、操作担当がダンサー本人と云う点で、画期的だ。しかも、一琥さんはPHSしか知らない人である。

無事に終演したことは事実だが、では本番中にトラブルが一切無かったかと云えば、ある。『3.10』の公演としては珍しいくらい何かが起きた。たとえば、スマートフォンが突然止まる。踊りながらスマートフォンを操作するのがいかに難しいかと云う消費者テストにはなったわけだが、ではいったい誰がスマートフォンを踊りながら使うのか。「ちょっと踊っただけで画面が消えちゃったじゃないか」とメーカのコールセンターに訴えたらキチンと対応してくれるだろうか。そもそも舞台に関わる者たちは、ロクでもないことを実行する人種である。今回の『3.10』について云うなら、ブラックライトを舞台床から90cmほどの高さに仕込んだことも、考えようによってはロクでもないことだ。光源を見続けると眼が痛くなるブラックライトを、観客の真向かいに置いた。

荒野真司さんが白を基調にした衣装を作ってくれたものだから、「ブラックライトで光らせよう」などと思いつき、試してみたら天然素材の麻はあまり蛍光せず、「光るのはポリエステルだ」となって、衣装の裏地などに白いポリエステル生地を貼ってもらった。そんなことをしている一方で、何がブラックライトで蛍光するのかをいろいろ試し、それもまた消費者テストのようなことではある。しかも、「紙幣の偽造防止インクが光るはずだ」と、どうでもいいことを思い出し、実際に試したわけで、朱色の印影などが鮮やかに蛍光した。ブラックライトの光で踊っている一琥さんの衣装に客がおひねりで万札を次々に挟んだならば、それはそれは煌びやかな光景になったはずだが、その時点で何か違う趣旨のショーになってしまう。

そうして『3.10』が楽日を迎えた翌日に、世の中が落ち着かないことになってしまった。半村良オフィシャルサイトやその公式ツイッターを更新するネタ探しの目的で読んでいた本は半村さんの『晴れた空』だったのだが、東京大空襲後の東京が舞台の『晴れた空』に描かれる状況は地震以降の今に似ていて、奇妙な臨場感がある。そんな呑気なことを云っててイイものかと思いはするが、こんな時ほど開き直ってしまう自分が居る。取り敢えず自宅に持ち帰ったブラックライトで、もう少し遊んでみようか。書棚から崩れ落ちた大量の本を片付ける気力すら出ず、ブラックライトを当てたら崩れた本の間に忘れた紙幣を発見するのではないかと思ったが、なぜか10円以下の小銭ばかりが妙な所に転がっているのだった。硬貨は蛍光しませんよ。念のため。

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